約 2,471,511 件
https://w.atwiki.jp/psp_oreimop2/pages/29.html
CGモードの一部画像のサムネがバグってる - 名無しさん 2012-05-19 18 54 52 どっかバグってた? - 名無しさん 2012-05-19 20 39 15 アルバムで最後のフルコンで出てくるCGの差分数が違う - 名無しさん 2012-05-21 15 30 41 修正 - 名無しさん 2012-05-21 19 58 36 麻奈実編にて一部セリフとCG等が一致していない気が… - 名無しさん 2012-05-22 00 04 00 まぁ、製作期間などの都合でしょう。浴衣来てなかったりおかーさんのパンツがトランクスだったり…… - 名無しさん 2012-05-22 07 43 55 未確認情報ですが、前作連動しないでおまけシナリオ解除する方法はディスク1のCGフルコンプだとか・・・確認できる方いましたらお願いします - 名無しさん 2012-05-27 08 31 16 ディスク1のCGフルコンプで連動解放確認しました - 名無しさん 2012-06-02 00 03 27 リファインのフローチャートは今しばらくお待ちください。 - psp_oreimop2 2012-06-03 23 05 52 フローチャート作成に取り掛かります。 - psp_oreimop2 2012-06-04 02 10 40 フローチャート掲載しました。 - psp_oreimop2 2012-06-08 04 49 36 多分、これでフローチャートは完成です。 - psp_oreimop2 2012-06-10 21 43 14 一部参照ミス修正 - psp_oreimop2 2012-08-09 22 54 55 136 旅は道連れ、世は無常へ』 へは、全問正解が1回もないじゃなく、全問不正解じゃないといけないはず。1回でもピコーンと良い返事にしたらBADENDにいけなかった - 名無しさん 2013-06-19 20 51 17 上のは麻奈美ルートです - 名無しさん 2013-06-19 20 52 00 まなみルートの【137 お風呂あそび】はCG 12 ゆっくり付き合っていこうを見た後じゃないとだめっぽい - 名無しさん 2013-07-14 13 06 27 一発でいけたから詳細未確認。ただ、いけないルートが有るのは現在把握。 - 名無しさん 2013-07-19 08 45 24 桐乃編・俺の妹がこの本で感動しないわけがないの京介のセリフ「実は、これを書いた中学生ってな、お前のことなんだ」が左CHからしか音声が出ない。VITAの純正ヘッドホン使用。ここだけ何度再生しても左のみ。ちなみにリファイン版のBest版のDL版です。 - 名無しさん 2013-08-25 03 04 06
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/1750.html
290 :Monolith兵:2013/07/14(日) 23 48 17 ※この作品にはTS要素が含まれています。ご注意ください。 ネタSS「俺の妹が○○○なわけがない!」 閑話5-2 桐乃と新垣議員が新しいあやせルートのスタートを切っていた頃、解散した俺妹部会の一部も行動を開始していた。 <桐乃派の場合> 桐乃派はかつて崩壊の危機に、いや崩壊した。しかし、諦めの悪いものたちを中心として、俺妹部会以外の者たちを巻き込んで復活しつつあった。 ここは桐乃派が仮のアジトとしているとあるレンタルオフィスである。 「俺たちは確かに現実を直視していなかったのかもしれない・・・。だが、今の俺たちは違う!桐乃の中身は辻政信だという事を今の俺たちは受け入れている!」 「そうだそうだ!俺たちは負け犬じゃない!」 「そして、今我々は新しい仲間を迎え入れることになった!皆も知っているだろうが改めて紹介しよう。」 そういうと、幾人かの男女が椅子から立ち上がり司会役の男の傍まで近寄ってきた。 「彼女たちはMMJのBL研究会の方々だ。桐乃の中身が辻政信で京介の中身が嶋田繁太郎ということを知り、我々に協力してくれることになった。」 「紹介に預かりましたBL研究会の安田です。この度は伝統ある辻×嶋田の絡みを見ることが出来るということで協力させていただきます。どうか宜しくお願いします。」 「次にTS研究会の方々だ。桐乃のみならず、黒猫も彼らの守備範囲ではあるが、我々の誠意ある説得により、協力してくれることになった。」 「TS研究会の富田です。現実のTSがこの目で見れると知り、居ても立ってもいられず協力させていただくことになりました。」 TS研究会は初め黒猫たちとも接触をとっていたが、あまりにもあれだったので桐乃派へと引っ越してきたのだ。 「さあ、我々の悲願がかなうときがもうすぐ来るぞ!全ては」 「「「MMJの為に!!」」」 「「「わーはっははっははっはっはははは!!!」」」 <黒猫派の場合> 黒猫派は桐乃派と同じく、中身が某陸軍大将と判明した時点で消滅した。そして、今黒猫派も同じく復活しつつあったが桐乃派と違い、旧黒猫派は新生黒猫は似は参加していなかった。 それは何故かというと・・・。 「さて、諸君。俺こと黒猫は高坂京介にこっぴどく振られてしまい前世の記憶を取り戻し、ネオ黒猫である闇猫に進化することが出来た。だが!俺を振っておいて妹の日向に走るなど話にならん!ここに私は諸君らと共に高坂京介に神罰を下すことを決意した!」 「「「おおー!」」」 「まずは我々で京介を俺に振り向かせるのだ!そして、京介を俺のものにした後、京介にすべてを告げる!京介の前世のこと、妹のこと、そして何より俺の前世のことをだ!それがどれほどの衝撃となるかは解らないが、かなりの打撃となるであろう!そして、その時こそ我等”邪気眼派”に高坂京介を引き入れ、彼と共に更なる邪気眼の世界中への布教に邁進するのだ!!」 「「「おおおー!」」」 「諸君らのこれまでの苦労に感謝し、より一層の忠誠に感謝する。」 黒猫は、いや闇猫はそこで腕を振り上げた。 「高坂邸へと進路をとれ!」 黒猫は邪気眼派の面々の声援を受けつつ、彼らの用意した車に乗り込んで高坂家を目指した。 291 :Monolith兵:2013/07/14(日) 23 48 52 一方、京介は学校の中庭で赤城瀬菜とベンチに座り話をしていた。 「・・・これは貴方にもメリットがあるはずです。」 「ええ。願っても無い提案ですよ、嶋田さん。」 2人は偽装交際をしようという話をしていた。京介はいい加減黒猫の攻勢に精神をすり減らされていたし、桐乃からもフリーならあやせと付き合えと散々言われていた。そこで、瀬菜と付き合うことで2人をけん制しようとしたのだ。 一方瀬菜も、基本的に京介と同じ理由で偽装交際をしようと思っていた。兄浩平の視線は相変わらずエロいし、ひとつ先輩の真壁からも熱い眼差しを受けているのだ。普通の少女なら前者では酷く傷つき、後者なら少し気恥ずかしく思っていただろう。しかし、中身が爺の赤城瀬菜はその両者ともが気持ち悪く、うざかった。 「「友情は見返りを求めない!」」 2人は固い握手をして、互いの精神的安定の為に努力することを誓ったのだった。 それが果たして意味のあることであるのかは、今は誰も知ることは無かった。 おわり
https://w.atwiki.jp/orenoimoutoga/pages/110.html
京介「変な英語みたいなんも出てきたしどーなってやがんだ?」 桐乃「な……な…。アンタまさか…」 京介「もしかして不良品かコレ? なんも反応しねーし」 黒猫「…で、顔面におもいっきりビンタされたわけね」 京介「ひでー話だと思わねぇか? たかがノーパソの画面が青くなったくらいでさ!」 黒猫「たかが…ねぇ。それくらいで済んでありがたく思いなさい」 京介「んだよ。お前の桐乃の肩を持つのか? どっちの味方だよ」 沙織「こればっかりは京介氏に非があるかと思いますぞ」 京介「沙織まで…。わかったよ、テメェらに愚痴った俺が馬鹿だったよ」 黒猫「全く。拗ねる前に人の話をよく聞きなさい」 沙織「桐乃殿のノーパソは、ただ画面が青くなっただけではありませぬぞ」 京介「…て事は何か意味があるってことか?」 黒猫「俗に言う蒼画面。オペレーティングシステムに何らかの異常が発生した…という警告画面よ」 京介「おぺれーてぃんぐ…? なんだよそりゃ」 沙織「そうですなぁ…。京介氏にもわかりやすく言うならばゲームの電源を入れた時に表示される『おきのどくですが』と同じ様なものでしょうか」 京介「な…なんだよそりゃ!? 俺の今までクリアーしてきたエロゲのデータが全部消えるってことか?」 黒猫「ニュアンス的にはそんな感じね」 京介「うーん…。それでもあんなに怒る事かねぇ? もう一回クリアーすりゃいいじゃないか」 黒猫「はぁ。これだから下界の人間は困るのよ」 京介「なんだよ、その可哀想な物を見るような目は」 黒猫「パソコンというのはゲーム機と違って色々なデータを保存できるのよ」 京介「そんな事位知ってるって。俺も音楽とか画像を保存してるしな」 沙織「ほほぅ…。京介氏の保存している画像。興味がありますな」 黒猫「話を脱線させないで頂戴。どうせ眼鏡の半裸画像がほとんどでしょう」 京介「うるせーよ! お前も充分脱線させてるだろうが!?」 黒猫「…あら、否定はしないのね」 沙織「…とまぁ、パソコンと言う物は各々の記録を保存している大事なアルバムとでも言えるのでござるよ」 京介「アルバム……。てことはそのブルースクリーンってやつになっちまったって事は」 黒猫「最悪の場合はOSを再度インストールし直したり、ハードディスクを交換する事もあるわね」 沙織「つまり、データがすべて消えてしまうと言う事なのです」 京介「データが消える…。って事はアイツの想い出も一緒に消えちまうって……そういう事かよ?」 黒猫「えぇ。そういう事ね。現世から全ての楔を解き放ち、その魂は異界へと転移してしまうの」 京介「そんな…そんな馬鹿な事ってあるのかよ!? 俺は…俺は桐乃になんて事をしちまったんだ」 黒猫「あら、ようやく事態の深刻さに気がついたのかしら」 京介「あぁ…。俺は馬鹿だ、大馬鹿野郎だぜ。桐乃の…、アイツの大事な想い出を奪っちまうなんて…」 沙織「京介氏、そんなに自分を責めないで下され」 京介「けどよ!」 黒猫「フフフ…。アナタも運が良いわね。ここに私という存在がいたことに感謝なさい」 京介「なに……? それじゃ直せるのかお前が!?」 黒猫「センヨウの堕天使と謳われた私に不可能な事など無いわ」 京介「く…黒猫ぉ! 今日ばっかりはお前が堕天使に見えるぜ!」ガシッ 黒猫「……ちょ、ちょっと。きゅ、急に手を掴まないで頂戴…」 沙織「まぁ実のところ再起動で何とかなる場合も多いのですが」 黒猫「アナタは黙っていて!」 京介「じゃあ早速修理してくれよ、アイツを安心させてやりたくてさ」 黒猫「ふむ…。私の魔力を持ってすれば片手間で出来るのだけど。それじゃ面白くないわね」 京介「面白くない? どういう事だよ」 黒猫「いい事を思いついたわ。アナタが直してあげなさい」 京介「俺が!? 馬鹿言うなよ、それが出来ないからお前に頼んでるんじゃ」 黒猫「もちろんそんな事不可能だというのはわかっているわ。だからコレを使うのよ」サッ 沙織「それは、携帯のハンズフリーのイヤホンでござるな」 黒猫「これで私が指示を出すから、アナタは指示通りに動いて頂戴」 京介「いや。なんでそんな面倒臭いことするんだよ。お前がウチに来てパパっと直してくれればいいじゃんか」 沙織「拙者も京介氏に同感かと。その方がきりりん氏も喜ぶでしょうぞ」 黒猫「そ…それが…嫌なのよ」 京介「はぁ…? なんで嫌なんだよ。きっとお前に感謝すると思うぜ」 沙織「ははーん。さては黒猫氏照れているのでござろう」 黒猫「ち、違うわよ!? 借りを作りたくないだけよ」 京介「全く。どいつも素直じゃねぇな」 桐乃「…で? 何の用なのよアンタ。良くもノコノコとアタシの前に顔を出せたわね」 京介「桐乃……聞いてくれ」 桐乃「なによ? 急に改まって」 京介「俺はお前に取り返しの付かない事をしちまった…。お前のノーパソをブルースクリーンってヤツにしちまったんだ」 桐乃「な、…なんでアンタがそれを知ってんのよ」 京介「それなのに俺はお前の気持ちも知らずに、あんな無神経な事を言っちまった」 桐乃「ちょっと…止めてよ。そんなマジになって。分かればいいんだから…」 京介「いや、そんなんじゃ俺の気がすまねぇ! だからお前のノーパソを貸して欲しいんだ」 桐乃「そんなのどうするのよ。コレはブルースクリーンが…」 京介「俺が直すんだ」 桐乃「アンタがぁ? 馬鹿言わないでよ、素人のアンタがそんな事できるわけないじゃない!」 京介「いいや。出来るさ、必ずな」 桐乃「な、なんでよ!?」 京介「だって、俺はお前のお兄ちゃんなんだからな」 桐乃「え…………」 京介「だから俺に任せろ。俺がお前の想い出を取り戻してやるから。な?」ポン 桐乃「う、……うん。わかった」 黒猫「………」 沙織「どうしたでおじゃるか黒猫氏? 携帯をもったまま激しい歯軋りをして」 京介「…、聞こえるか黒猫? 何とか修理まで取り付けたぞ」 黒猫『鮮明に聞こえているわよ。アナタ達のやり取り一語一句逃さずにね…』 京介「ん? なに怒ってるんだよお前」 黒猫『怒ってなどいないわよ! 怒ってなどいないわ』 桐乃「ちょっと、何アンタ一人でブツブツ言ってんのよ? 直してくれるんじゃないの」 京介「あぁ、悪い悪い。今からやるからな」 沙織『さぁ、黒猫氏。はやく京介殿にご指示を』 黒猫『分かっているわよ…。それじゃあ蒼画面の種類を教えて頂戴』 京介「種類…? ブルースクリーンはブルースクリーンじゃないのか」 沙織『正確にはそこに表示されている英文の事でござるよ』 京介「あぁ、白い文字のコイツか。これが何の役に立つんだ?」 黒猫『はぁ…。下界の人間を相手にするのも疲れるわね』 京介「だからなんだよ。その可哀想な物を見るような溜息は…」 黒猫『よくお聞きなさい。そこに表示された文字は一見、古代クロンギ語に見えるでしょうが。実はエラー内容や問題を起こしたファイル名が表示されているのよ。センヨウの堕天使である私ならば…』 京介「……なぁ黒猫」 黒猫『なにかしら?』 京介「ただでさえややこしいんだから、こういう時くらい中二設定ってヤツは控えてくれないか?」 黒猫『う、うるさいわね! アナタは言われた通りにやりなさい』 ガチャリ 桐乃「どう兄貴? 直りそうなの」 京介「え!? お、おう。センヨウの堕天使に任せとけってばよ!」ビクッ 桐乃「センヨウ…? 堕天使ぃ」 京介「あ、いや何でも無いぞ!」 桐乃「しっかりしてよね。あの地味猫の中二病が移ったのかと思ったじゃん」 京介「ば、馬鹿言うな!? んなわけないだろ、うん!」 黒猫『……地味はひとりでいい。…地味はひとりでいいのよ』ギリギリッギリギリ 沙織『く…黒猫氏。だからどうしたでおじゃるか。携帯を持ったままさらに激しい歯軋りを…』 桐乃「ま、いいわ。ほらアンタの分」サッ 京介「紅茶か? サンキューな桐乃」 桐乃「アタシのとっておきだから感謝しなさいよね。香りとかもいいんだから」 京介「お前のとっておきか。それじゃゆっくり味わって飲まないとな」ニコッ 桐乃「う、……うん」 沙織『黒猫殿。コーヒーのお代わりはいかかがですかな? いやぁ、何杯でもおかわり無料とはマックもやりますなぁ』 黒猫『そうね…。紅茶はないけれどもコーヒーはあるものね。兄さんと紅茶はないけれど、コーヒーはいくらでもあるものね…流石マックね』ブツブツ 沙織『うん? 何を詠唱してるのでござるか』 桐乃「この紅茶には、このクッキーが合うのよね」ポリッ 京介「へぇー、そうなのか。どれどれ」ポリポリ 桐乃「あ、こら! そんなに沢山食べるなっての!」 京介「ブッ! …わ、悪ぃつい旨そうだったからさ」 桐乃「べ、…別にいいどさ。そんなに気に入ったの?」 京介「あぁ、どこで売ってたんだコレ? また買ってきてやるよ」 桐乃「駅前のデパート…。そ、その時はアタシも一緒に行くから言ってよね」 京介「そうか。ありがとな桐乃、助かるよ」 桐乃「うん…。別にいいしそれくらい」 黒猫『私はアナタのティータイムを実況してもらう為に、今日このマックにいるのかしら? 紅茶も何もないマックにいるのかしら?』 京介「あ、悪ぃ悪ぃ。そう言うなってよ、紅茶くらいウチで飲ませてやるから」 黒猫『そ、それは真実の理なのかしら!?』ガダッ 沙織『ちょ、黒猫殿。そんな急に立ち上がってはマックコーヒーがこぼれてしまいますぞ!』 京介「あぁ。桐乃が入れてくれる紅茶はすげぇ美味いぞ。期待しててくれ」 黒猫『あ……うん。いいわ、遠慮しておくわ。私そんなに言うほど紅茶好きじゃなかったわ。オラクルからのメッセージでもそう言っているもの…』ブツブツ 京介「あん? まぁ、それならいいんだけどさ」 沙織『京介氏。それはさておき早く英文の方を教えてくださりませぬか?』 京介「あぁ、そうだったな。えー…っと……」 京介「…なぁ、桐乃。こいつなんて書いてあるんだ?」 桐乃「はぁ? 見れば分かるじゃないの。つかアンタ今みてるじゃない」 京介「でもそれじゃ、黒猫に伝わ…じゃねぇや。なんでもいいだろ!」 桐乃「……ん? ま、いいけどさ。 STOP c0000218 unknown Hard Error Beginning dump of physical memory Physical memory dump complete. Contact your system administrator or technical support group for further」 黒猫『はびゅぅぅるう!!?』ブッツッパァーーーンッ!! 沙織『く、黒猫氏ぃぃ!! コーヒーがぁぁ! 熱々のマックコーヒーが拙者の顔面にぃぃ!!』ゴロゴロ 京介「…!?」ビクッ 桐乃「な、何!? 今なんかアンタの方から沙織の叫び声が聞こえなかった?」 京介「そ、そんな訳ないだろ!? 俺だよ、俺の声だってば」 桐乃「そうなの…? なんかついでに地味猫の声も聞こえたような…」 京介「お…おーい…。HQ、HQ。どうなんだ? 直りそうなのか」 沙織『きゅ、急に何をするでござるか黒猫氏…。流石の拙者も死ぬかと思いましたぞ…』フキフキ 黒猫『そんな悠長な事を言っている場合じゃないわよ…』 京介「なんだ? 沙織が死ぬよりも大変な状態なのかよ」ボソボソ 黒猫『セーフモードだとか前回正常起動時の構成だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてないわよ。もっと恐ろしいものの片鱗ね……』 沙織『そ、そこまでの代物なのでござるか?』 黒猫『窓達の最凶クラスのエラーよ。その原因不明で凶悪なエラー症状から、死のエラーという別称で恐れられているわ』 京介「またまたー。そういう中二設定はいいからさ、早く直し方を教えてくれよ」 黒猫『これは、ガチよッ!!』ダンッ 京介「ガチって…。おいおいそれじゃ俺の立場はどうなるんだよ…」 桐乃「ちょ、ちょっとどうしたのよ兄貴? なんか顔色悪くない」 京介「き、気のせいだ! 待ってろよー今すぐお兄ちゃんが直してやっからな!」 沙織『黒猫氏…、どうにかなりませぬか。このままでは京介殿が』 黒猫『くっ……。いったいどうすれば。あの手段だけはとりたくは無いのだけれども』 京介「何かとっておきがあるのか? アイツのノーパソが直るんなら、この際何でもいいぜ。教えてくれ黒猫ッ!」 黒猫『分かった…。センヨウに伝わる禁忌の魔術書。その一番核心に記されている創生の呪文をアナタに伝承するわ…』 桐乃「本当に大丈夫? 少し横になったほうが良くない。ほらアタシのベット貸したげるからさ」 京介「桐乃、一度しか言わないから良く聞いてくれ」クルッ 桐乃「な…、何よ? 身体は大丈夫なの」 京介「俺はお前と約束した。お前のノーパソを…、いや。お前の大事な想い出を取り返してみせると」 桐乃「それはそうだけど…。無理しなくっても」 京介「桐乃の笑顔が戻れば俺の身体はどうなったっていいんだ!」 桐乃「あ…、兄貴…アンタ」 京介「だから聞いてくれ。この言葉を…、桐乃の笑顔を取り戻す魔法の呪文を」 桐乃「魔法の……呪文?」 京介「『東芝情報機器株式会社が提供する有料のデータ復旧サービスに送れば直るんじゃないかしら。 三万円近くするでしょうけど貴方、無駄にお金持っているだから簡単でしょう。フフフフ…』だ!」 桐乃「…………………………………」 京介「桐乃、どうした虚空を見つめて? まさかダメだったってのか、この謎の文字列の呪文が…」 桐乃「……ねぇ、お兄ちゃん」ニコッ 京介「お、おぉ!? 桐乃に笑顔が…。笑顔が戻ったのか! ありがとよ黒ね…」 桐乃「三回死ねぇぇぇえぇぇぇえええええええぇッ!!!」ブォォオオォォン! ベッチコォーーーーーンッ!! 京介「ぐべらぁぁあああぁっ」ドガァァアアァン! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 黒猫『……ミッション・コンプリート』 黒猫「…で、また顔面におもいっきりビンタされたわけね」 沙織「黒猫氏の言葉を翻訳しますと、…『自腹で修理してもらえよ、お前金あるんだからさー』といった所でしょうか」 京介「そりゃぶたれるわ!! テメェらに愚痴った俺が馬鹿だったよ!」 黒猫「全く。拗ねる前に目の前のマックコーヒーでもありがたく啜りなさいな」 京介「こんなインスタントのコーヒーなんざありがたくもなんともねーっての」 黒猫「あら、そうかしら。兄さんの奢りのマックコーヒーはとても美味に感じるわよ」ズズズズ… 沙織「京介殿、黒猫氏をあまり責めないでもらえませぬか? 彼女も持てる限りの努力はしたのでござるよ」 京介「あぁ…、分かってるって。サンキューな黒猫」 黒猫「べ…、別に感謝などされるいわれは無いわよ。結局直せなかったのだし…」 京介「いいや。お前はちゃんと直してくれたさ」 黒猫「そんな見え透いた嘘は止めて頂戴。あなたの妹のノートパソコンはいまだにブルースクリーンでしょう」 京介「ノーパソじゃねぇよ…」 黒猫「…え?」 京介「俺と桐乃の仲を治してくれたんだ、お前はさ。相変わらずツンケンしてるけど、最初に愚痴った時よりかは大分機嫌も治ったみたいだしよ」 沙織「きっと、思いっきり気持ちをぶつけ合ったお陰でござろうよ」 京介「気持ちだけじゃなくて、平手もぶつけられたけどな…」 黒猫「…………あなた達兄弟の仲…ね」 京介「どうしたよ、微妙な顔して。俺は感謝してるんだぜ」 黒猫「私自身も微妙なのよ…。治して良かったのか、悪かったのか」 京介「なんだそりゃ…? 相変わらず面倒くさいヤツだなぁ」 黒猫「私もそう思うわ…」 京介「マックといえども三人分の出費はシャレにならねぇな…」ガチャリ 佳乃「あ、あら。おかえり京介」 京介「お袋? 玄関で立ちすくんでどうしたよ」 佳乃「いや、それが…二階から変な声と物音が聞こえてくるのよ。気持ちが悪くってね…」 京介「二階…って、俺と桐乃の部屋か?」 「あぁぁあああッ! アタシの秘蔵兄貴フォルダが! 300ギガの隠し撮り動画がぁあ!? こんなことなら外付けHDDにバックアップ取っておくんだった!!」ドガッ! ドガンッ!! 佳乃「…一体何かしら「ぎが」とか…「はーどでいすく」とか呪文みたいなものが聞こえてくるのよ」 京介「なーにやってんだ、アイツ…」 桐乃「兄貴のバカァァ! でも、明日はデパートデート! 兄貴愛してるぅううぅ!!」 =おしまい=
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/194.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1281447547/143-154 俺の後輩は猫 キーンコーンカーンコーンと午前の授業を終える鐘が鳴り響く。 昼休みに入って教室は一気に賑やかになった。 誰もが楽しみの昼食時間、いつもなら俺のとこへ麻奈実がやってきて、「きょうちゃん、お昼食べよっ」と言ってくるのであるが今日は違った。 前の休み時間に『ごめんねきょうちゃん、今日はみんなとお昼食べる約束してるの』と言っていたからだ。 まぁこんな日もあるさ。なわけで俺は弁当箱を持って赤城のところへ向かった。 「おい、赤城。昼メシいっしょに食おうぜ」 赤城のやつは既に机に弁当箱を広げ、玉子焼きを口に運ぼうとしていた。 ちなみに他にも二名、クラスメイトが混じっている。 「あん、なんだ高坂。いつも田村さんと食べてるのに」 いつもとはなんだいつもとは。たまにはおまえらと一緒に食ってるじゃねーかよ。 常にセットみたいに言われるとなんとなく癪である。 「今日は麻奈実のやつは女子と外で食べるんだとよ。いいだろ?」 俺が聞くと他二名は「別にいいぜ」と言って首肯する。 「まぁいいけどよ。都合のいいときだけ俺を利用しようとしてんじゃねえだろな? 八方美人も大概にしろよ高坂」 赤城のやつも一緒に食うことには頷いたが、やけに皮肉っぽいセリフを吐きやがる。 まあ、コイツとは付き合いもそれなりだし、それが冗談だって分かってるんだけどな。 「そう言うなって、おまえと一緒に食いたいんだよ」 言いつつ椅子を寄せて机に弁当箱を置いていると、赤城のやつは「ケッ、なに言ってやがる」と言いながら持っていた玉子焼きをパクついた。 どうでもいいが、何で顔赤いんだ? 「さーて今日の弁当は何かな~」 と、俺が弁当の包みを開こうとしたとき、クラスメイトの女子が近づいてきて俺たちに「面会だよ」と言ってきた。 面会? 誰だよと思って教室の入り口を見ると、赤城の天使こと妹の瀬菜がこっちを向いて手をひらひら振っている。 「瀬菜ちゃんじゃん! どうしたの?」 赤城のやつは妹の瀬菜を見るやバッと立ち上がりすぐに瀬菜へ向かっていく。 まったく、妹のこととなると相変わらずテンション高くなるやつだ。実に見てて痛々しい。 シスコンってやつはなんでこうも変なやつが多いんだろうな。 ……ん? なんか文句でもあっか? 俺は赤城のやつはほっといて弁当箱を広げようとしてたんだが、 「おーい、高坂」 入り口から赤城が俺を呼んだ。 「なんだ?」 返事をして入り口まで行くと、赤城のやつは汚いものでも見るかのような目をしている。 「瀬菜ちゃん、おまえに用があるんだと」 どうやら妹の瀬菜が自分ではなく、俺に用があったのがかなり気に食わないらしい。俺にそんな目で見たって仕方ねえだろうが、ったくよ。 赤城兄はほっといて瀬菜の方を向くと瀬菜は軽く会釈する。あいかわらずおっぱいが大きいやつだな。えーっとあと何回会えばエッチイベントが始まるんだっけ? 「高坂先輩、すみません食事中に」 「いや、別にかまわねえけどよ、どうしたんだ俺に用って?」 瀬菜はなんだか複雑そうな顔をして話を切り出してきた。 「実はさっき体育の授業があったんですけど、授業が終わって更衣室に行こうとしてたら――」 ここまで言って言葉を一旦切り、小さい声で「おせっかいかな~」とか何やら呟いている。 なにか言い出しにくいことなのか? 一旦話し始めて途中でストップされたら逆に気になるっての。 「――してたら?」 俺が話を促すと、瀬菜は少し躊躇していたが続きを話し始めた。 「更衣室に行こうとしてたら――その、五更さんが倒れたんです」 「…………倒れ……え?」 倒れた? 黒猫のやつが? なんでだ? 瀬菜の言葉に思考が少し停止したが、すぐに妹の親友でもあり、俺の友達でもある黒猫の顔が浮かんできて、からだがザワついた。 「それで今保健室に運ばれているんですけど、おせっかいかもと思ったんですが一応高坂先輩にも言っておこうかと――って先輩?」 瀬菜の言葉を最後まで聞き終わることなく、俺は歩き出してた。 後ろから「ちょっと先輩!?」「おいっ、高坂」と赤城兄妹が呼ぶ声がしたかも知れないが、頭の中に入っちゃこなかった。 それどころじゃない、黒猫のやつが倒れただぁ? どういうこったよ、ああ? 俺は駆け出しそうなほどの歩みで保健室へ向かった。 保健室にたどり着き、扉をガラッと勢いよく開ける。部屋には保健の先生とおそらく後輩だろう女子生徒三人がいて、こちらを向いて俺という闖入者に目を丸くしていた。 先生は机の椅子に座っており、女子生徒三人は部屋の中央辺りにあるテーブルに弁当を広げてマル椅子に腰掛けて食事をしているようだった。 「どうしたの?」 と先生が聞いてくる。 「一年のくろね――五更瑠璃が倒れたって聞いて来たんですけど」 「あなたは?」 「三年の高坂京介です」 そう告げると、先生は窺うように俺を見たあと、立ち上がってカーテンが引いてある場所に入っていき(おそらくそこにベッドがあるんだろう)やがてシャッとカーテンを半分ほど開けると、俺にこいこいと手招きする。 近づいていくと、黒猫のやつはベッドに仰向けになっていつもの無表情、いや若干不機嫌そうな顔でこっちを見ていた。 「あまりからだに障るような話はしないでね」 先生はそう言うと机に戻っていき、その際、俺の背後の方で食事している女子三人に「静かに食べてさっさと出て行け」みたいなことを言っていた。 ベッドのそばの椅子に腰掛け、俺は黒猫に話しかけた。 「倒れたって聞いたぞ。大丈夫か?」 「まったく、何しに来たのあなた? 呼んでもいないのに勝手に現れてもウザいし迷惑よ」 開口一番、さっそく辛辣な言葉が飛んできた。実にひどい。 だがこんな憎まれ口たたいてるぶんには大丈夫なのかな。顔色も見るにいつもとあまり変わらず、思ったほど心配はなさそうだが。 「いや、瀬菜のやつが教室に来てさ、おまえが体育の授業で倒れたって聞いたんだよ」 「フン、やかましいだけじゃなくおしゃべりな子ね」 ベッドに横たわりながら黒猫はボソリと呟く。 「まあまあ。で? どうなんだ? 見たとこそんな重症って感じじゃないけどよ」 「ただの貧血よ。ちょっと体調が悪くてフラついただけなのに、あの女が大騒ぎしちゃって」 なるほど、そういうことな。 そんときの場面が容易に想像できるぜ。 おそらく黒猫は慣れない運動でもしたんだろう、授業が終わってホッとしていたときにちょいと無理でもしすぎたのかヨロめいて倒れ込む。 んで委員長である瀬菜が急いで先生を呼び保健室へ運ばせたってことなのだろう。 「そっか。じゃあたいしたことは無いんだな? 安心したよ。話を聞かされたときは何事かと心配しちまったぜ」 安堵の息を吐きながらそう言うと、黒猫は「余計なお世話よ」と目を反らしてしまう。 心配されるのがイヤなのか実に分かりやすい照れ隠しである。その可愛らしいしぐさについ口元が緩んでしまった。 「何を薄気味悪くニヤついてるのよ。体調が悪いときに気持ちが悪いものを見せつけないでくれる? 吐きそうになるわ」 「く……悪かったな」 俺の態度が気に入らなかったのか、黒猫から毒が飛んできた。 こいつの毒吐きにはもう慣れたし、別にいいけどよ。全ッ然気にしないもんね~俺ってば。グス。 と、そこへ保健室の扉がガラリと開く音がして振り返ると、瀬菜が入ってくる姿が見えた。 先生に会釈をしてこっちへ来る。 「高坂先輩、いきなり一人で行っちゃわないでくださいよ」 「ああ、わりぃわりぃ」 そういや俺、話の途中でさっさとここに来ちまったんだよな。 「五更さん、気分はどうですか?」 瀬菜は俺の横に立ち、黒猫へ安否を尋ねた。 「あなたのおかげで最悪よ。まったく、どうして先輩にまで知らせる必要があるっていうの」 「む。それは、だって五更さんが倒れたの、先輩も知っておいた方がいいかなって――」 瀬菜のやつは言いよどんでしまう。 そういやさっき教室でもなんか『おせっかいかも』とか呟いてたからな。おせっかい焼いた挙句に黒猫に直接余計なことしてくれたみたいに言われたんじゃこうなるか。 「そうなこと言うなって黒猫。瀬菜、知らせてくれてありがとな」 俺が瀬菜を庇うと、黒猫ももうそれ以上咎めたてるつもりも無かったのだろう、「フン」と小さく鼻を鳴らして、 「来てしまったものは仕方が無いわ」 イヤそ~な顔で俺を一瞥した。そこまでイヤがんなくていいじゃんか、そりゃ勝手に来ちまったのはアレだけどさ。 ついで瀬菜を見て「ただの貧血よ」とさっき俺に言ったようにたいしたことはないのだと説明する。 「こうして横になってるぶんには楽だし、問題はないわ」 「そうですか、倒れたときはびっくりしましたが大丈夫そうで良かったです」 瀬菜は本心から安心しているだろう表情を見せた。 いいやつじゃねーか黒猫。おまえが行動して得た友達は、おまえがおせっかいだと思うくらいにこうして心配してくれるんだからさ。なかなか居ないと思うぜ? そういう相手ってさ。 言葉に出しちまうと絶対認めねえだろうから黙ってるけどよ。その辺の意地っ張りはどっかの誰かさんとこいつは本当に良く似ている。 俺は内心ククッと顔には出さず笑いをこらえた。 「あ、そうだ高坂先輩。お兄ちゃんがこれをって」 と、瀬菜が俺に手に持っていたものを突き出してきた。って、俺の弁当箱じゃん。 「おお、そういえば昼メシ食う前だったんだよ、サンキュー」 「へへへ、お兄ちゃんが『高坂のやつがきっと腹すかすだろうから』って持たせてくれたんです。こういうさり気なさってのもやっぱり愛の一つですよね」 ニマ~と口の端を上げ、目じりを下げて俺を見てくる。 「おいコラ、また頭の中で変な妄想膨らませてんじゃねえぞこの野郎」 あとあんま声出して後ろの女子に聞かれても知んねえぞ? 「五更さんのも持ってきましょうか?」 「結構よ。食べたいって気分でもないし。今日は食事は抜くことにするわ」 ふ~ん、体調悪いときに受け付けないってのは分かるが少しは食べねえとからだ持たないんじゃ無いのか? 前に見たことがあるが弁当箱は小せえし、こいつは普段からあまり食ってない気がする。 もうちょっと食べた方がいいんじゃないのかなぁ。 「そうですか、それじゃ五更さん、先輩、あたしもお昼まだなんでこれで失礼しますね」 申し出を断ったところで瀬菜が辞意を言って立ち去ろうとすると、黒猫が「赤城さん」と声をかけた。 「へ、どうしました?」 黒猫は瀬菜をはっきり見据えて言う。 「色々してもらったこと、お礼を言わせてもらうわ。どうもありがとう」 「え? あっ……その……」 黒猫が殊勝な態度に出たことに瀬菜は面食らったようだ。 「べ、別にあたしは……い、委員長の責任を果たしただけ、ですから」 当惑してうまく喋れてないようだ。多少赤面してなくもない。やれやれ、ただ一言「どういたしまして」と言えばいいのに、こいつもこいつで素直じゃねえな。 瀬菜が先生に一礼してから保健室を出て行く姿を見送ってから俺は黒猫に向き直り、メシを食っていいか聞いてみた。 「邪魔じゃないなら、ここで食わせてもらって構わないか?」 「好きにすれば?」 「そうさせてもらおう」 今から教室戻ってもみんな食い終わってるだろうしな。 黒猫の許可も貰ったことで俺は瀬菜から受け取った弁当箱を膝の上に広げる。 中身はこれといって特色も無い白メシと冷凍惣菜のオンパレードだ。あとはリンゴの切り身があるくらいで手抜きが得意なお袋らしい内容。 いや、用意してくれるだけ感謝はしてるんだけどな。さーて多少遅れたがメシメシっと。 「瀬菜のやつ、テレてやがったぞ」 昼飯を食べながら俺。 「……っふ、人間風情が私に恩を売るようなマネをするからよ。素直に礼も受け取れないなんて可愛いものだわ」 「はは、なんだそりゃ」 俺は黒猫が瀬菜に素直に礼を言ったことには触れなかったよ。 なぜかって? そんなのは当たり前だろ。 一年前に出会った頃の俺は、確かにこいつが妙に他人を遠ざけ、孤高の存在であるかのように自分は他の人間たちとは違うと排他してるようにも思えた。 だけどそれは違った。 桐乃のやつや沙織、それから瀬菜といった他人と言葉を交わし、ときには口汚く罵り合い、ケンカし、それでもその相手との時間を築いてきた。信頼しえる関係となっていった。 決して他人とは話もしない、礼も言わない、相容れないだなんてこいつはこれっぽっちも思っちゃいないんだよ。 言葉に出しはしないが分かるさ、俺はそれをそばでずっと見ていたんだからよ――。 食事をしながらも黒猫とポツポツ会話する。 「また次のゲームとか考えたりしてんのか?」 「今度はRPGを作ろうかと案が持ち上がったりしているわね」 「ほう、そういや前作ったやつも最終的にはそんな要素追加してたな」 以前ゲームコンテスト出品の為に作ったゲーム。完成目前でバグが出て瀬菜と組んだときのことを思い出した。 残り一週間未満で黒猫と瀬菜はバグを直し尚且つゲームにRPG要素まで付け加えるということをしたのだ。 結果としては、クソゲーの烙印は押されはしてしまったが、俺は二人の鬼気迫るゲーム制作の場面を見て内心すげえなって感心したもんだよ。 「あれはジャンルとしてはRPGだけど、どちらかといえばノベルゲームの色あいが濃かったから今度はもっと本格的なものにしようかと話しているところよ。 私はそっちのジャンルのプログラムはあまり得意ではないのだけれど、あの子が良く知っているって言うから。それに、私もノベル以外のゲームでシナリオを一つ監修したいとも思っていたし調度良いかもしれないわね」 実によく喋る。やっぱこいつもオタクなんだよなぁ、体調悪くてベッドで寝ていても好きなことにはとても流暢になる。 「俺もまた何か手伝えることがあったら遠慮なく言ってくれ。たいしたことは出来ねえとは思うがよ」 「その通りね」 スパンと竹が割れる音が聞こえるほど即答しやがった。もっと言い方ってもんがあるだろちくしょー、年上だからって泣くときは泣くんだからな? 「でも先輩が折角そう言うのだったら、私が疲れたときは肩でも揉んでもらおうかしら?」 「へいへい、それくらいならお安い御用だ。なんぼでもやってやらぁ」 「ついでに部室の椅子が固くてしかたないの、あなた椅子になってくれない?」 「どこの女王様だよ!? 病人だっつっても容赦なくつっこむぞ、おい!」 場所が場所だし相手は体調が悪いので小声でつっこむ。 黒猫のやつは布団で口元を隠してコロコロ笑っているようだ。 まあなんだ、笑ってちょっとでも気分が良くなるんなら、少しくらいならバカにされてやってもいいかな。 喋っている間にも俺の弁当箱はほとんど空になっていた。残るのはリンゴが一切れ。 「昼メシ、ほんとに食わなくて大丈夫なのか?」 「平気よ。夜にでも血を求めて彷徨うとするわ」 昼メシは抜いても夜はちゃんと食べるってことだと解釈しよう。 「そうは言ってもよ、少しくらいは腹に入れといたほうがいいと思うが。そうだ、リンゴ食うか? これくらいだったら別に平気だろ」 聞くと黒猫は少し思案してから「そうね……頂こうかしら」と答えた。 「おう」 ホレ食えと爪楊枝の刺さったリンゴを黒猫の口元に運ぶ。 「…………」 「どうした? ほら」 なんかいきなり黙っちまったぞ? やっぱ食いたくねえのかな? 少し様子を見ていると、やがて黒猫はふるふると口元を開け、シャリッと一口した。 と、後ろからいきなり「キャ――ッ」と黄色い声が飛んできた。 なんだぁと思って振り返ってみれば、テーブルでメシを食ってた女子三人組が俺たちの方を見てなにやらヒソヒソと会話している。 内容は聞き取れないが「見た今の?」とか「やっぱりそうなんだぁ」とかキャーキャーわけわからねえことを言っているようだ。 「コラッ。食べたならさっさと出ていきな!」 保健の先生の注意で、姦しかった三人組は「は~い」と声を揃えて弁当箱を抱えて保健室を出ていく。 そんときも、やけに俺たちの方をチラチラ見てなにやら笑っていた。 「あいつら知り合いか?」 「違うけど……、多分同じ学年の別クラスの子だと……思う」 「そうなのか、向こうはなんか俺たちを知っているみてえだったけど」 「その……少し噂になってたから」 黒猫は俺の方を見ずに、か細い声で答える。なんかすげー顔赤くなってないか? 「噂?」 「私とあなたが……その――」 ごにょごにょと口を動かしてはいるが全然聞き取れなかった。 「それにさっきのも……誤解されたの……かも」 「さっきのって……、あっ」 黒猫に遅れて俺も耳まで紅潮してしまった。 今頃になって自分がしでかしたクソ恥ずかしいことに気付いちまったからだ。 リンゴを口に運んで食べさせるって、どっからどう見ても恋人みたいに「あ~ん」してやってるシチュエーションじゃねえかよ! しかも噂って……、そういや俺こいつに会いに何度か教室まで行ってるもんなぁ。 何度も上級生である俺が一年の教室へ特定の女の子に会いに来ていれば、自ずとどういう噂になるかなど分かろうと言うものだ。 つまりさっきの一年の女子たちは俺と黒猫が恋人同士だと誤解した、俺が黒猫の安否を気遣って保健室へやってきたときにはもう格好の獲物みたいに見えたろう。 コソコソ俺たちの様子を見ていて、さっきのリンゴ食わせたところなんか見た日にゃ噂好きなやつらにはもうもってこいのシーンってことか。 ぐぎゃああぁぁぁぁぁ、なんて恥ずかしいことしてんだ俺は――っ!? 「わ、悪かった」 「別に……よく知りもしない人間になにを思われようが……ど、どうもしないわ」 「そ、そか」 半分齧られたリンゴが刺さった爪楊枝をクルクルしながらテレ隠しにポイッと口に放り込む。 「なっ!? な――ななな!」 それを見た黒猫がますます、それこそリンゴのように赤くなり、目を見開いて涙まで浮かべて驚く。 「へ?」 また何かしましたか俺? え? だってもうさっきの子たちはいないし恥ずかしいこともして――――るよぉぉぉぉ俺ぇぇぇぇっ! な~~~に黒猫が齧ったリンゴを食ってんだよ俺! どうみても、かかか間接キスじゃねえか!? 「た、度々……すまん!」 「ば、莫迦ッ!」 そう言って黒猫はプイッと俺の真反対へ向いて完全に拗ねてしまった。 ほんとバカだな俺って。こりゃしばらくの間は毒を吐かれまくっても仕方ねえぞ。 会話も止まってしまい、どうしたもんかと空になった弁当箱を閉まっていると、保健の先生が近づいてきた。 「五更さん、体調はどうかしら?」 どうやら様子を確認にきたらしい。 「えと、まだ少し悪いですが、楽になりました。平気です」 「ん~~」 腰をかがめて黒猫の顔を覗き込んで何やら診断している。それからやおら立ち上がってチロッと俺の方をすがめ見た。 なんだ? それからまた黒猫の方を向いて、 「けっこう重いほうなの?」 重いってなんだろな? 血が重い? あっ、なわけねえだろバカか俺は。貧血で倒れたんだ、頭かからだが重いかってことだな。 「…………………………い、いえ」 聞き取れるか聞き取れないかくらいの小さな声。なにやらかなり言いよどんでいるようでもあった。 「そう。でも一応次の時間も様子見て休みましょう」 「……はい」 「担任の先生には伝えておくから。それから、先生も次の時間ここ居なくなっちゃうんだけど、鍵は内側からかけておいてもいいからね。あなたも次の授業があるでしょう、そろそろ戻りなさい」 そう俺と黒猫に言い残して先生は保健室から出て行った。部屋には二人だけとなる。 「黒猫、さっきはマジ悪かったな。勘弁してくれ」 ほんと悪いことしちまったな。さっきのカシマシ娘どもが教室に戻って言いふらせば、こいつがキライな噂なんていう雑音が耳に入ってくるだろうしよ。 先ほどの失態を、頭を下げて必死に謝ってると黒猫は横目で俺を見て「もういいわよ」と一言だけ答えた。 まだ少し顔が赤いでもない。 「な、なにかして欲しいことはないか? そうだ、飲み物でも買ってきてやろうか?」 なんとかご機嫌をとろうと試みる。 やっぱまだ気にしてるだろうしなぁ。頼む、こっち向いて機嫌なおしてくれ! 黒猫はそっぽを向いたまま「別になにも――」と言いかけたがそこで何か思いついたのか、やや一呼吸おき俺の方に向き直って言葉をかけた。 「そうね、せっかくだから貰おうかしら。運ばれたとき先生がそこの冷蔵庫にあるもの飲んでもいいって言っていたから、それ持ってきて頂戴」 目が向いている方向を見ると部屋の隅に冷蔵庫があった。おそらく氷嚢とか閉まっておくために備え付けられているんだろう。 「よしきたちょっと待ってろ」 席を立って、冷蔵庫を開ける。中には確かにスポーツドリンクのペットボトルが数本入っていた。一本取り出してからまた黒猫の横へ戻ってきて「ほらよ」と差し出す。 が、なぜか黒猫は受け取ろうとしない。 「どうした?」 黒猫は無表情で俺を見ていたかと思うとニヤ~と笑って言った。 「手を使うのが億劫なの〝兄さん〟、飲ませて頂戴」 「んなっ!?」 黒猫は微笑して俺にとんでもない要求をしてきやがった。いきなりのことに面食らう俺を「どうしたの?」と意地悪そうに見てくる。 それに、 「おまえ、兄さんって」 「あら、前にも言ったでしょ。二人きりのときは〝兄さん〟て呼ぶって」 そりゃ確かに言ってたけどさ、ありゃあんときだけの冗談じゃなかったのかよ? こんないきなり言い出すなんて聞いてねえぞ! それにさっきまでおまえってば顔赤くしてなかったか? なんで態度豹変してんの!? なんで今度は俺の方が赤くなるようなことを言うわけ!? 事実、黒猫のなんか妙に色気のある微笑と甘い囁きで、俺の顔はカーッと朱がはしっている。 「何かして欲しいことはないかって言ったのは兄さんよ。喉が渇いたわ、早くして兄さん?」 「う、うぐ……ほ、ほらよ」 言ってしまったものはしょうがないと、黒猫の口にペットボトルを運び入れる。 「ん……」 コクコクと細い首筋から喉を鳴らして飲んでいく。 楽になりやすいように黒猫のやつは上着は脱いでおり、ついでにリボンも解きブラウスの第一ボタンも外しているもんだから、その様子がやけに目に付いてまた顔が熱くなる。 「ん……はぁ。もういいわ、ありがとう兄さん」 満足げに笑って嘲弄するようにまた兄さんとか言いやがる。 あーあー分かってるよ。さっきのお返しだってことだな。 「ったく、からかいやがって」 「おかしいわね、私はただ飲み物を飲んだだけなのに」 「はっ、何を」 今度は俺が「ふん」とそっぽを向く番だった。チロリと流し目で見ると黒猫はクスクスと口を押さえて肩を揺らし笑っている。 くそっ、こいつやっぱ笑うといつもよりすげー可愛いな。 と、そこで予鈴の鐘がなった。 「あ~そろそろ戻らねえと」 「あら、妹を一人残して行ってしまう気?」 「だ~からそろそろやめてくれって」 「冗談よ、遅刻したくなければ早く戻りなさい」 「ん、ああ。体調の方はどうだ、いくらかマシになったか?」 「さっきも聞いていたでしょ。こうして横になっているぶんには特に平気」 「そか、さっき先生が頭が重いのかとかなんとか聞いてたが?」 「……ッ…………う、うるさいわね」 なにやら気分を害しちまったみてえだ。 「それよりほら、授業が始まってしまうわよ」 話を反らすように俺を促す。時計を見ると確かにちょっと走らないと間に合いそうに無い時間だった。 「それじゃ、俺ももう行くわ」 「ええ、兄さん……」 俺は椅子から立ち上がって扉の方へ歩き出す。 扉に手をかけて……………………………………振り返ってまた黒猫の横へ戻り椅子に腰を下ろした。 たった今、別れを言ったばかりの相手が戻ってきたことに黒猫は一瞬唖然としたような顔をしたが、すぐに顔を歪めた。 「どういうつもり?」と鋭い目つきで聞いてくる。 「一つくらい授業サボったってどうってことはねえさ」 「私は『戻って』と言ったのよ」 「まあ良いじゃん」 「先生が戻ってきたらどう言うのよ」 「そこは仕方ねえから素直に怒られるだけかな」 「ふざけないでっ。私はそんなつもりで言ったわけじゃないことくらい分かるでしょ。あなただって『からかうな』とか――」 「俺が一緒にいてえんだよ」 黒猫の言葉を終わるのを待たず、俺は言った。 「な、何を」 「おまえは関係ない。俺は自分勝手なやつだからな、おまえと話してんのが授業聴くより面白いって思ったもんだから、もうちっとここに居させてもらう。それだけだ、文句あっか?」 言葉どおり実に勝手な主張を一方的にまくし立てふんぞり返ると、黒猫は感情の制御が追いつかないのか呆れたような怒ったような色々な表情を見せ、やがて――、 「フンッ。じゃあ勝手になさいっ」 「あいよ」 実際、俺がなぜ戻ってきたのか。本心は今言ったとおりだ。 一人で寂しいんじゃないかとか、心細いんじゃないかとかはこれっぽっちも思わなかったね。こいつがそんなことを思うようなやつじゃないってのは、充分に理解してるつもりだからな。 本当にただ単に俺がここに居たかっただけだ。 「とことん妹に甘いのね兄さんは」 「や、だから――」 「そういうことにしておくわ。…………から」 最後の方は息を吐いているだけのような声だったので何も聞こえなかった。 午後の授業時間に入り、昼休みにざわついていた校舎もひっそりと静まりかえっていた。 窓を開けてあったので、そこからカーテンを揺らしながら風が吹き込み、肌を心地よく撫ぜていく。 「たまにはいいもんだなこうしてサボるのも」 「あら、サボり癖がついてDQN化したあと転がり落ちるような人生を送りたいの?」 「なるかっ! ちっと風が気持ちいかったってダケだよ」 「ククク……。つまらないわね、兄さんが落ちぶれて路上生活しているところを想像すると、それはそれで楽しいのだけれど」 「ひでえこと想像して楽しんでんじゃねぇよ!」 サボると言ったときはかなり不機嫌になっていた黒猫は機嫌をなおしてくれたのか、それともたんに俺の勝手な言動を諦めただけなのか、今は普通に話しかけてくる。 良かった。強引にここに居座ることにしたわけなんだが、怒らしちまって気まずい雰囲気のままだったらどうしようかと思ったもんな。 「そういえばさ――」 それから俺たちは、部活で瀬菜たちとまた作るであろうゲームの話や、アメリカから帰ってきた桐乃がアホみたいにクリアしていなかったエロゲーをがんがん攻略していること、今度始まるらしい黒猫一押しのアニメの話とかをした。 やがて会話が途切れ、しばし沈黙のときが訪れる。 黒猫のやつは前髪をサラサラと揺らす風を気持ちよさそうに感じている。 何か話さねえとなんて思わなかったね。なんつうかお互い黙っていても居心地が良い、そんな空気があった。まるで、あいつといるような……。 と、黒猫がごろんと俺のほうに寝転がり手をすぅと伸ばしてきた。 「ねえ兄さん、手を握って頂戴」 「へ? な、なんで!?」 「いいから……」 黒猫はじっと俺を見つめそれ以上何も言わない。 いきなり『手を握ってくれ』なんぞと言われて俺はあたふた視線を泳がせたりして狼狽していたが、黒猫は微動だにしない。ただ黙って俺がそうするのを待っているかのようだった。 やがて吸い込まれるように俺は黒猫の手のひらに静かに自分の手を重ねた。 「こ、これでいいか?」 「それだとただ手を重ねているだけじゃない。私は『握って』と言ったのよ?」 「~~~っ。分かったよ。こ、こうか」 ゆっくりと小さな手を包み込むように握る。冷たく、柔らかい感触が俺の手へと伝わってきた。 こう表現するのもどうかと思うが、女の子の――手なんだよな、こいつの手。 「ん」 目を細めて俺の方を見やる。艶やかな微笑が胸を鼓動をおかしくさせた。たぶん顔も若干赤く染まっちまってるだろう。 それから、時間にして一分にも満たなかった時間、何も言わずに手を握っていたが「もういいわ」と黒猫は手を戻してまた仰向けになった。 「たく、どうしたってんだよ」 目を閉じて黒猫は言う。 「別に……。ただ、あの子の気持ちがどうだったのか、知りたかっただけよ」 「あの子?」 「分からなければそれで良いの」 それっきり黒猫は口を開かなくなり、いつの間にか寝入ってしまったようだ。小さく布団を上下させている。 あの子って誰だ? 瀬菜か? もしくは桐乃か沙織か、または俺の知らない誰かのことを言ったんだろうか。 分からずじまいだな、まあいいや。 てゆうかさ………………、やっぱりこいつって、そのさ、俺のこと――す、好きなんじゃねえの!? だってこんな手を握ってくるとかさ、ありえねえだろ? どう考えても嫌われてるはずないよな! しまった! 今、超いい雰囲気だったじゃん。校舎裏でのキスのことを聞く絶好の機会だったのにぃ。俺のバカバカバカ、なんでもっと早く気付かねぇんだよぉぉ! いや、まだ遅くはねえよな。こいつが起きたらいっちょチキンハートを震え上がらせて、聞いてみっか! きゃあああああああああああ、なんかすんげぇドキドキしてきたっ! え~と起きたときの第一声はどうすっかな。『おはよう』? いや『目が覚めたかい、子猫ちゃん』とか。いやいやもっとこうバシッとするようなセリフをだなぁ―― 午後一の授業が終わる直前に黒猫は目を覚ました。 ゆっくりと瞼を上げて、俺が見ていることに気付いたのか視線を向けてくる。 俺は椅子に足を組んで膝の上に頬杖をつき、爽やかに笑みを浮かべて「よ、おはよう」と声をかけた。 我ながらちとかっこつけすぎかな。結局あれこれ考えた末になにも思いつかず、挨拶はシンプルにして、なんとなーくこのポーズを思いついたのだった。 「…………あなた、ずっと居たの?」と黒猫。 「ああ、ずっと見ていたぜ」と俺(←爽やか)。 「フ、フフフッ。そ、そう……。ずっと、ずっとあたしが寝ているところを見ていたってワケね……」 黒猫はなにやら俯むいて、からだを震わせている。 恥ずかしがってんだな。そのうち『莫迦ッ』とか顔を赤らめて照れ隠しの憎まれ口を言うに違いない。可愛いもんだ。 黒猫は俺に向き直ると、 「後輩の女の子をじ~っと視姦するだなんて汚らわしい豚ね」 ほらな思ったとおり、黒猫は眉を逆八の字にし顔に怒気を含めて生ゴミを見ているような目をしながら俺を蔑むような口調で――――――――あれ? 「えっと? その、黒猫~さん?」 「なにを薄汚い顔で気安く話しかけてるのよ」 「あの、おは~~よう?」 「人語も解せ無いのかしらこのケダモノは。檻にでもブチ込んでおいたほうがいいのかしら。それともコマ切れにでもして鴉のエサにでも――」 なにやらおどろおどろしい黒いものが黒猫の周りから立ちこめているような空気。これは、どう見ても怒ってらっしゃいますね…………。 え、ええええええええ? 寝る前はあんなにすうぃ~とな雰囲気だったじゃん? なんでいきなりこうなってんの!? バグ? バグなのこれ? 「そのね、俺はただね、あのときのことを聞きたいかな~って」 「まだしゃべるつもりでいるの、このクソ虫が。いっそその口を五寸釘で閉ざして樹海に括りつけて『祝ってやる』とからだに刻み込んでやろうかしら?」 「か、勘弁してくれえぇぇ!」 黒猫からもはや毒でもない恐々たる呪言を浴びせられているところで授業の終了を知らせる鐘。 「さっさと戻ったらどうなの? 豚は豚箱へねぇぇぇっ」 ひぃぃぃぃぃぃぃッ! もうそこに一秒たりとて存在することさえ許さないと言わんばかりの眼光。チキンハートは別の意味で震え上がった。 「そ、それじゃあ失礼します!」 うわ~んと涙目で逃げ出すように保健室から出て行こうとすると後ろから声が聞こえてきた。 「ほんとに……私の寝顔を……ずっとだなんて…………」 「え?」 「な、何も言ってないわよっ。さっさと出て行ったらどうなのっ」 「は、はいぃっ」 黒猫のやつ超怖かった、グスン。 保健室を後にして泣きながら教室へ戻る途中、そこでの出来事を反芻する。 不機嫌にムスッとしたり怒ったり甘えてきたり。寝る前は微笑んでいたのに起きればさっきのようにブチぎれられたり。 少しは黒猫のことはと思っちゃいたが、まだまだ分かってねえんだな俺。 足元をスリスリとなついてきたかと思えば、いきなりツンとして顔も向けてくれなくなったりする。ほんと猫のようだ。 怒りが収まった頃合を見て今度は猫缶――ではなくお菓子かあいつが好きそうなアニメの話題でも仕入れて話しかけてみよう。 それこそ、猫のご機嫌を伺うように。
https://w.atwiki.jp/orenoimoutoga/pages/149.html
桐乃の兄貴と彼氏、そしてマネージャーが同一人物、つまり俺であることが加奈子にバレた、という知らせは既にあやせから聞いていた。 あやせによるとバレてしまったのは俺についての情報だけらしく、桐乃がオタクであるということはいまだバレていないらしい。 桐乃のことを誤魔化すために俺がスケープゴートにされたのではないかという不信感はあるが、まあそれはよしとしよう。 一つ納得できない点がある。 『つーかその桐乃の兄貴が何でマネージャーやってたのかってことはどう説明したんだ?』 『簡単です。お兄さんがオタクだということにしました』 『ちょっと待て。それは一体どういうことだ?』 『つまり、オタクであるお兄さんはコスプレ大会にすごく興味がある。そこで、妹の友達である私に協力してもらい、コスプレ大会の裏方として参加しようとした、と』 『何だその最低野郎!? いくら興味あるからって妹の友達にそんなこと頼むか普通!?』 『はい、その最低野郎がお兄さんだということにしました』 『ひど!!』 まあそういうことだ。 しかし納得できないとは言っても、バレた相手は所詮加奈子。 あんなちんちくりんなどに用は無い。 例えあいつが桐乃と家で遊ぶことはあっても、別に関わることは無いだろう。 俺とアイツは相性が悪い。 下手に誤解を解こうとするより、無関係でいる方がよっぽどいい。 そう思っていたのに、突然アイツは家にやってきた。 「よっ、糞マネ。加奈子様が遊びに来てやったぜ?」 「……はあ?」 大きな荷物を持って、桐乃のいない時間に。 「桐乃はいないぞ」 「知ってるって。確か今日は昼までだったかな」 「は? じゃあ何でこんな早くに来たんだよ」 「何だよ。私が遊んでやろーってのに、嬉しくねーのかよ?」 加奈子は勝手知ったると言った感じで、ずかずかと家に上がり込んでくる。 遊ぶと言ったって。 俺はお前と遊ぶ気などないし、そもそも一体何をして遊ぶというのだ。 話の話題は間違いなく合わないし、趣味もそうだろう。 こいつがシスカリの特訓やエロゲをしたいというのなら別だが……。 しかしこう書くと、まるで俺が重度のエロゲオタクみたいだ。 いやいや、それは違う……と思った時点で、一つの共通点が思い浮かんだ。 「お前さー、やっぱメルルとかそういうの好きなんだな。あのライブに忍び込むくらいなんだし」 「好きというか……うん、まあ、大好きだ」 そう言えば俺はメルルオタクという設定だったな。 「メルル見ながらご飯三杯はいけるね」 「それはちょっと理解出来ねえなあ……部屋上がっていーか? 桐乃の部屋の横だったよな」 ちょっとやりすぎたか。 まあいいや。 っておい、お前俺の部屋に入って何するつもりだ。 まさかお前も桐乃に俺のお宝の位置を聞いていて、なんてことはないだろうな。 「しょっぺー部屋」 「しょっぱくて悪かったな。男子高校生なんてこんなもんだろ」 「高校生ならもっとインテリアとか気を遣えよ。小学生の部屋みてー」 「質実剛健をモットーとしてるからな」 もちろん嘘である。 単純にそういうの興味が無いだけだ。 赤城の部屋に行った時、ヴィレッジなんちゃらで買ったとか言う蝋燭(あいつはキャンドルと言ってたが、んなもん蝋燭だ蝋燭)を見せられたが、全く欲しいとは思わなかった。 机もベッドも、別に無理して格好良く見せる必要もないだろう。 え? だから地味でモテないだって? うっせ! 「お茶くらい出せよ」 「勝手に来ておいて随分な言い草だな」 「ケチケチすんなよ。だからモテないんだよ」 「うるせ」 しょうがないから麦茶を出してやる。 何故こいつと言い桐乃の友達は傲岸不遜なやつばっかりなんだ。 まともなのは沙織くらいなものだ。 あいつといると性格がねじ曲がるのか、そういう性格の人間が集まってしまうのか、それとも女子中学生ってのはみんなああなのかね。 まあいい。 適当に相手して桐乃が帰ってくるのを待つしかないか。 「麦茶かよ。しけてんな」 「麦茶なめんな」 「お茶受けも無いし」 「薄荷飴でも舐めてろ」 「なんでハッカなんだよ……」 「ところでさ、お前」 「あん?」 「その荷物何?」 「おぉー! そうだそうだ、忘れてた」 ぶっちゃけずっと気になってたが、どうせ桐乃関連の、俺にはひどくどうでもいいものだろうと思って敢えて口には出さなかったのだが。 こっちを見て笑う加奈子を見ていると、何やら嫌な予感がする。 「感謝しろよ、京介」 「何をだよ」 「えーと、桐乃の部屋使っても良いかな」 「鍵かかってるんじゃないか?」 「マジかよ。じゃあ、ちょっとこの部屋から出てってくんない?」 「何で部屋の主である俺が出なきゃならん」 「オマエに拒否権は無いっ!!」 「あるわボケ!」 とは言いつつも、加奈子に従って部屋の外に出る俺。 世知辛い世の中だ。 しばらくして、いいぞと声がかかる。 何か恥ずかしげな、少しくぐもったような声。 ……部屋の中で何をしていたのか、大体見当はついてるんだよな。 おもに衣擦れの音で。 とりあえず、扉を開ける。 そこには、メルルがいた。 ……けして、二次元への扉を開けたとか、そういう意味ではない。 「お前、何してんだ?」 「じゃーん。へへ、これ貰ったんだよ。どう、似合う?」 「そりゃ、まあ、似合ってるよ」 俺もコスプレコンテストでかつて見たことがある、メルルのコスプレ衣装を着た加奈子が、そこにはいった。 メルルは、本編アニメでは決して出さないであろう生意気そうな顔をしている。 へへん、どうだって感じの。 「何だよ、微妙な反応だな」 「いや、それよりお前、何で今それ着てんの?」 「あー? お前のために決まってんじゃん」 「お、俺の?」 「メルルオタクなお前のために、わざわざ着てやってんじゃん。感謝しろよな」 「か、感謝って……」 「どうなんだよ?」 重度のオタク役を演じる俺としては、喝采をもって喜びを表現した方がいいのだろうか。 良識ある一般人として憚られるものがあるが、しかしやむを得ないだろう。 俺はロリコンではないし、オタクでもない。 そのことをちゃんと付しておきたい。 「むちゃくちゃ可愛いじゃねえか!!!!!!」 「うひゃぁっ、ちょっ、おま何抱きついて」 「あーもう、可愛いなこん畜生!! 触らせろ舐めさせろ体中を吸わせろおおおおおお!!!!!」 「おかしいおかしいお前テンションおかしいって!!」 「あーもう何抵抗しやがる! パンツの匂いが嗅ぎづらいだろうが!!」 「ぎにゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」 数分後。 よれたメルルの衣装を着て仁王立ちをする少女と、その前で正座して俯いている青年。 哀れな図である。 そんな光景が、ここ高坂家において実現していた。 いやまあコスプレを除けば、我が家では割とよくある光景ではあるが。 「落ち着いたか変態」 「はい落ち着きました」 「で、何か言うことは」 「演技でもノリすぎると本気になってしまうことが分かりました」 「まず謝れよ! まだちょっと涙出てんだからよ!」 「済まぬ」 加奈子はぷいっとそっぽを向く。 ただの生意気な奴だと思ってたが、こうしてみると結構可愛い。 あと胸元のリボンがずれて、ちょっとピンクなのが見えてるぞ。 言うべきか言わざるべきか。 つうかこういうのって、中にもう一枚着るもんじゃないのか。 こすれたりしないのかな。 「まあ、反省したんならいいけどよ」 いいのか。 もし俺がお前の親御さんなら、まず通報してそれからどうするか考えるけどな。 しかし許してくれるというなら、それ以上のことは無い。 「ありがたき幸せ」 「ふん。……あとさ、他にしてほしいことは?」 「え? 他に?」 何だこいつ。 ついに奉仕精神に目覚めたか、気持ち悪い。 加奈子は一しきり思案した後、何かを思いついたような顔をしてこちらを向く。 「じゃ、記念撮影な」 「記念撮影って……」 「ほら、携帯貸せよ。カメラカメラっと。ほらっ、一緒にさ」 「一緒に、ねえ」 「もっと近づけよ、もっと」 ぎゅぅっとくっついて、写真を撮る。 香水の匂いはするが、女性らしい匂いというよりは、子供っぽい匂いがした。 いや別にそっちのが好みとかそういうのじゃなくて。 カシャ、カシャといくつか写真を撮る。 撮ったものを見ると、何だかプリクラでアニメキャラのフレームを使ったようでもあり、現実味がない。 何というか、合いすぎだ。 こいつ本当は二次元からやってきたんじゃないか? そしてこの現世で、人間の瘴気に染まりこんな性格になってしまったのだと、黒猫めいたことを考える。 「アドレス帳開いて適当なやつに送っちゃおっかなー」 「ばっ、お前それは止めろ!」 「にひひ。ばーか、やんないよ」 「ったく……このことは秘密な?」 「秘密……ひひっ。うん、秘密にしておいてやんよ」 ケラケラと笑うその姿は何というか、悔しいことに可愛らしく。 天使のように、じゃないな。 じゃあ何だろうな。 魔法少女のように可愛くってことでいいのか? 俺がそんなバカげたことを考えているとガチャリとドアを開ける音が――― 「ただいまー」 「うおっ!? か、帰って来たぞ桐乃!」 「マジで!? もっと遅くだと思ってたのに!」 「いいから早く着替えろ、俺出てるから」 「あっ、ちょっと待て」 加奈子は、俺の腕を掴んで背伸びをする。 そうすると俺の顎の下くらいに加奈子の頭が来るのだが、加奈子は頻りに頭を下げろ下げろと催促をする。 俺には加奈子が何をしたいのか分からないが、とりあえず従うことにした。 頭を下げた俺と、背伸びをする加奈子の顔が一つに重なり。 カシャ、と音がした。 「お前あいつと何話してたんだ?」 「ハァ? 女子中学生の会話聞いてどうしようってんの? キモ」 「俺はお前らがあんまりうるさいからだなあ」 「どうせ聞き耳たててたんじゃないの? ハアハアしながらさ」 「するか! どんな変態だよ俺は!」 「変態じゃん」 随分バッサリときますね。 畜生、お前の変態の汚名まで俺が肩代わりしてやってるというのに……。 ちなみに今は桐乃の部屋でエロゲプレイ中である。 うん、いつもの日常だな。 「お前がそんなにひどいと、俺は二次元の妹に浮気しちゃうぞ」 「何言ってんの馬鹿じゃないの」かこかこ 「あ? お前携帯変えたのか? それ俺のと同じ機種じゃん」 「目腐ってんの? あんたのケータイに決まってんでしょ」 「んな!? お前何勝手に見てやがる!!」 「あんたのポッケから落ちてたの保護してやってんじゃん。ん?」 「返せ! 俺にもプライバシーってもんが……!」 「……なにこれ」 携帯の画面には、仲良く写るメルルと俺。 うん、改めて見てもよく撮れてるな。 可愛いし。 じゃなくて。 「何であんたがメルルちゃんとツーショット決めてんのよおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」 「も、もちつけ!! 違う、これは孔明の罠だ!!」 「しかもこんなにたくさん……あ?」 「あっ、それはキスの……」 「貴様あああああああああ!!!! 何メルルちゃんのかわゆい唇にキスしよるかあああああああああああああ!!!!!!!! 磔刑に処してくれるわあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」 「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」 その後は大変だった。 首を絞められたり、画面に頭を押し付けて二次元に入り込もうとしたり、兄貴とすれば間接キスになるよねなどと訳のわからない供述をしたり、チラ乳首見てフヒヒwwwメルルちゃんの乳首はピンクでござるなあコポォwwwwwwwwなんて言い始めたり。 未練は特にないが画像を没収された。 つまり桐乃の携帯、パソコンにはいまだに画像があるという訳だ。 まあ、何とか命を保つことはできた。 ん? メールか。 『ごめん。あの画像、全部あやせに見られちった』 さよなら現世。 こんにちは二次元。
https://w.atwiki.jp/mg_rpg_ar_dic/pages/633.html
[Pv,-,User,-,-/TpによるRのd減少無視] ☆☆プール、鳥もち、厳しい寒苦、冷たい雨、呪いの邪眼、ブラインド、発光床に効果がある。前2つは飛行状態でも無視できるが、まあそれなりの効果と言えるだろう。が、この中でトラップ解除可能なのは呪いの邪眼だけで、あとは全てコンティニュ型だ。こうした戦場で一人だけ元気でもあまり意味がない。取得するならギルド単位で取るべきだろう。トラップが原因の転倒や放心によるダイス減少には効かない。多分。(灯) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/625.html
俺は今、悪鬼を前にしていた。 正確に表記すれば、悪鬼と化した俺の妹、桐乃と対峙していた。 「き、桐乃。落ち着け」 「……これで落ち着けるワケないでしょッ!!」 桐乃が手にしているのは、一つのアルバム。 「なんなの、これ、どういうコト? 納得行くまで説明してくんない?」 その一つのページを指差して、桐乃は俺を羅刹の如く睨みつける。 「そ、それは……」 そのページには何があるのかって? ……あやせとのラブプリクラ? いや、だ、だって、こうなあ? 滅茶苦茶好みの女の子がこう、誘ってきたらつい、魔が差しちゃうだろ!? 「まなちゃんはどうしたワケ!?」 「ま、まなちゃん?」 誰だそいつ。 「麻奈実さん! 分かりなさいよ、そんぐらい」 いや、おまえがそんな言い方してんの始めて聞いたし。 ん? 始めてじゃないな、昔に聞いたことが……。 「はい、ボーっとしないっ!」 「す、すいませんした!」 こ、こええよ、俺の妹、マジ怖え。 海外に行って迫力がハリウッドになってんよ、こいつ……! 「で、どうなの!?」 「そ、その……別れました」 「なんで……!? ありえなくない?」 そ、そう言われてもな。 こう、色々あったんだよ、おまえが居ない間に。 「べ、別にいいだろ。浮気してた訳じゃないんだし」 ちゃんと別れてからのプリクラだかんね、それ。 「……いつ、撮ったワケ?」 「…………」 「あたしが海外に行く前は、麻奈実さんと付き合ってたよね、あんた」 「…………」 ダラダラと冷や汗が止まらない。 なんだ、警察に尋問されているような気分になってきたぞ。 流石、警察官の娘だけある……のか? 「……日付。ホラ、読んでみ」 プリクラにちゃっかりと日付が記載してあった。 お、俺の馬鹿……、なんでこんなん書いちゃったんだ。 俺が黙っていると、桐乃はガラリと声色を変える。 空々しいまでの軽い声。 「あれー、たしかあ、あたしが海外に行ったのはいつだったかなあ?」 ……こ、怖えええ、ひしひしと怒気が伝わってくんぞ。 あの無邪気な笑顔な下では何度俺が撲殺されてるんだ……。 「……後デス」 「聞こえない。もっかい言ってみ?」 ……ゴクリ。 「い、一週間後デス」 桐乃が海外に行った一週間後の日付が、そのプリクラには記載されていた。 「ふ、ふふふ」 不気味な笑いを浮かべる桐乃。 あやせを怒らせても怖いが、あやせのが刺される系の恐怖に対し、桐乃のは捻り潰される系の恐怖だ。 死ぬ、俺は死ぬ。 「……あたし、あやせからなーんにも聞いてないんですケド」 「…………」 それは俺のせいじゃないと思うんだが。 バンッ! 桐乃はそのアルバムを床に叩きつける。 お、おいおい、床、凹んでねえよな。 すんげえ音したぞ。 そんな心配を他所に、桐乃はつかつかと俺の前まで歩いてきて、俺の胸ぐらを掴む。 「……で? どういうコト?」 超至近距離で俺を睨みつけてくる。 「べ、別にいいだろ。俺が何をしようが。おまえは俺の彼女かっての」 「妻ですけど」 ……そうでした。 いや、まだ結婚してないけどね? つか結婚出来ないけどね? 「は、話せば長くなるんだが」 「三行で纏めて」 無茶言うなっての! つか、三行って一行何文字だよ……? 「言っておくけど、まなちゃん泣かしてたらマジ許さないから」 「お、おまえってそんな麻奈実と仲良かったっけ?」 「ちっ……、そんなん今関係ないでしょ? で、どうなの?」 し、仕方ない。腹を括るか。 「……麻奈実に、振られた」 「嘘つくな!」 「う、嘘じゃねえって」 「麻奈実さんがあんたを振るワケないでしょっ!」 なんだこの断言。 どんだけ麻奈実の事を分かってるつもりなんだよ。 ……まあ、俺も同じような意見だが。 あいつが俺を振る……なんて余り想像できない。 自分で言うのも何だが、結構麻奈実に好かれてる自信はあったしな。 「……それでも、振られんたんだよ」 「……マジなワケ?」 「ああ」 しかし、それが真実だった。 俺は、田村麻奈実に振られた。完璧に。完全に。 「……なんで?」 どうしても信じられないんだろう。 桐乃は、俺にその理由を聞いてくる。 ……正直、言いたくないんだけどな。 けどこいつは納得できるまで俺を問い詰めるだろうし。 俺が答えなければ、麻奈実に聞き出しかねない。 それは、避けたい。 「聞かれたんだよ」 だから正直に俺は告白する。 何があったのかを包み隠さず。 「なんて?」 桐乃は胸ぐらを掴む力を強める。 「……桐乃を、愛してるのかって」 掴んでいた力が、弱まった。 「…………」 「…………」 二人に訪れる沈黙。 そう、麻奈実は真剣な、それでもいつものように柔らかい雰囲気で俺に聞いてきた。 ――桐乃ちゃんの事、きょうちゃんは好きなのかな……ううん、愛してるのかな? 「あ、あんたは……」 俺の胸ぐらを掴んでいた手を離して、桐乃は一歩下がる。 そして俯いたまま、会話を続ける。 「あんたは……どう答えたワケ?」 その質問に、俺は目を閉じる。 今でも、しっかりと思い出せる。 俺が、どう答えたのか。 「ああ、って答えた」 そう答えた俺に、麻奈実は特に驚きもせず、そうなんだー、と返したのを覚えている。 それから、確認するように。 ――それは、わたしよりも? ああ。 ――それは、他の誰よりも? ……ああ。 ――それは……これからも? …………。 そして、麻奈実は俺の答えを待たずに。 ――きょうちゃん、別れよ? と、そう言った。 「……馬鹿」 「…………」 「あんたって……ホント馬鹿」 知ってる。 俺は……馬鹿だった。 あの会話がどれだけ、麻奈実を傷つけたのか俺には想像も出来ない。 初めは、麻奈実の方が好きだと思ってたんだ。 それは嘘じゃない。 だから、付きあおうと決めた。 けど、それはもしかすると、桐乃に俺を諦めさせる為の行動だったのかも知れない。 そして、それが見えていたから。 桐乃が居なくなった次の日、俺が一人暮らしを始めたその日に。 麻奈実はその質問を投げかけてきたのかも知れない。 わたしの役目は、終わりだねとばかりに。 「そんで……俺、すげえ落ち込んじゃってさ」 「…………」 「そしたらあやせが、俺の一人暮らし先に来てさ」 ――お兄さん、お姉さんと別れたらしいですね。 ……ああ。 ――お姉さんよりも桐乃が好きって言ったらしいですね。 …………ああ。 ――なんでまだ生きているんですか? …………。 ――仕方ないから、私が傍にいてあげます。 ……俺は。 ――いいんです。お兄さんは桐乃が一番で。私も、桐乃が一番なんですから。 …………。 ――きっと、上手くやれますよ。 俺は、別にあやせと付き合った訳じゃない。 けど、あやせは頻繁に俺の家に来てくれた。 時に家事をしてくれて、時に元気づけてくれた。 そのプリクラだって、凹んでいる俺を元気づける為だった。 ――ほら、これを貼ってください。お兄さんの携帯に。 ……なんだって? ――私が……傍にいてあげますから。 沢山、あやせは桐乃の事を教えてくれた。 そして、自分の見解を教えてくれた。 数年後、必ず桐乃はお兄さんの隣に戻ってくると。 ――だから、お兄さんの為じゃなく、桐乃の為に私はこの場所を居続けます。 ――いつか、桐乃に渡せるように。 ――だからそれまでの間だけでいいので……。 ――お兄さんの傍に……居させてください。 会社で、同僚に言い寄られた時は、あやせが彼女の振りして邪魔をしにきた。 上司に連れられてキャバクラに行った時は、あやせが俺に対して真剣に怒ってくれた。 まるで、桐乃のようだった、と思う。 あやせは、桐乃の代理としてそこに居てくれたんだと思う。 だから、俺は桐乃が居ない数年を、こうやって過ごす事が出来たんだ。 そんな俺の話を聞いて、桐乃はただただ、黙りこんでしまった。 親友の行動に、今、どう思っているのだろう。 怒っているのだろうか。悲しんでいるのだろうか。 それは表情からだと分からない。 ただ、何とも言えない、悲しいのか怒っているのか。 複雑な表情を浮かべて、拳を握りしめていた。 「なあ」 「…………」 「あやせ、怒らないでいてやってくれな」 なんで黙ってたのかは知らないが、しかし宣言するのもまた違う気がする。 付き合ってた訳でもないし、ただ傍に居てくれただけで。 「俺、あいつが居たからこうしておまえを待てたんだ」 あやせが居なかったら、俺は海外までおまえを追いかけていったかも知れない。 仕事も何もかもそっちのけで。 そして、何もかもを失っていたかもしれない。 「……怒るワケないじゃん」 「そっか……ぐ、あ!」 しんみりと頷いた俺の腹を、桐乃の拳が貫いていた。 いや、さすがに貫通はしてないが、そんぐらいの勢いだった。 「あやせは怒らない。ケド、あんたには怒る」 「…………」 「なんで、って言わないで。あんたを殺したくなるから」 そう言って、まるで手加減の無い桐乃の攻撃が今一度、繰り出された。 俺は、それを防ぐ事も出来ずに、ただ受け止めた。 痛い。実に痛い。何の呵責も無い一撃。 そして胸ぐらを再び掴まれたと思ったら、そのまま足を払われた。 「……ッ!」 足が払われ、一瞬宙を舞っている形になった俺は、そのまま胸ぐらに込められた力ごと床に叩きつけられる。 ……鮮やかな手並みだった。 「……ガッ、は……」 余りの激痛に、暫く声が出ない。 「へへっ、もしもの時にってお父さんが渡してくれた護身術の本にあった技がこうして生かせる時がくるとは」 親父がこの技の元凶か……! 滅茶苦茶痛えぞ……! 護身つうか、明らかに捕縛方面だよね、これ。 「……ホント、馬鹿なんだから」 体勢としては仰向けに倒れた俺に、桐乃が馬乗りになっている体勢。 まさかここから顔面ラッシュに入るんじゃないかと危惧したが、そういう展開にはならなかった。 そのまま、桐乃が上半身を俺に倒してきて、顔を俺の肩に載せる。 「あたしが居ないと……ホント、あんたは駄目なんだね」 …………。 そう、だな。 おまえが居ないと俺は色んな人に迷惑を掛けてばかりで……。 どんどん駄目になっちまうんだって分かった。 「……おかえり、桐乃」 「……ただいま、兄貴」 夫婦を目指そうってのに、俺と桐乃はどうしたって、兄妹だった。 // 今更になるが、今はもう夜だった。 あの昼間に桐乃に会ってからもう半日が立っていた。 その間、何をしてたかって? そりゃ、仕事をしてたんだよ、社会人だからな。 んで、桐乃を待たせる場所も思いつかなかったんで、俺の家の鍵と住所を教えて別れて。 仕事終わって帰ってみたら、桐乃が鬼になってたと。 「そういや……、夕飯どうする?」 「あ、あたしが作ったげようか?」 ……愛妻料理か。 確かにそれも魅力的な提案だった。 しかし……前にあやせと桐乃の料理の話をした時のあの表情を思い返すと……。 …………。 桐乃の手料理は次の日が休みの時にしよう。 「いや、俺が作るわ。久しぶりに日本の料理を味わいたいだろ」 「……へえ、あんたの料理食べるの、久しぶりなんですケド」 あれ、食べさせた事、あったっけ? ……ああ、そう言えば両親が留守してる時に作ったりした事があったか。 一応、簡単な料理ならあの頃から出来た。 しかし、今の俺の料理の腕はあの時とは比べ物にならないぜ? なんせあやせが必死に教えてくれたからな。 理由については教えてくれなかったけど。 ――いつか必要になる日が来ます。 とか断言していたけど、あれは一体どういう事なんだろうな。 いや、薄々と理由には気付いているが……。 まあ、敢えて黙っておくのが花だろう。 そんな訳で、俺が台所に立つ。 もうここに立つのも慣れたもんだ。 鼻歌交じりに、冷蔵庫から材料を取り出すと、フライパンに油を敷いて火で熱する。 んー、炒め物でいいかね。 ふと視線を感じて振り向くと桐乃がこっちを見ていた。 「どうした? ああ、適当に寛いでていいぞ。テレビでも点けて見ててくれててもいい」 「……ううん。見てる」 「……そうか?」 こうやって料理を作る光景なんて見てても面白くないと思うんだけどな。 まあ、桐乃が良いって言うなら止める必要はない。 …………。 ジャー、カシャカシャ、ジャー。 …………。 ゴトゴト。パッパッ。ゴトゴト。 …………。 「……なんか視線を感じるとちょっとやりづらいんだが」 「あ、ご、ゴメン」 あれからずっと、桐乃は俺の料理光景を見ていた。 その内飽きるだろうと思ったが、予想に反して飽きる事なく俺を見続けていた。 しかも時折、何か妙にニヤニヤしたり、にへらぁ、という感じに笑ったりするから気になる。 「なんだよ、そんなに珍しいか? 俺が料理してんの」 「え? う、ううん、そうじゃなくてさ」 「なんだよ」 「その……し、新婚生活っぽいなあ、ってちょっと思っただけ」 「ちょ……!」 し、新婚生活って、おま……なんて恥ずかしい台詞を吐きやがるんだ。 ん? あれ、それって俺が主夫? …………。 何か、嫌な未来を想像してしまった。 ぜ、ぜってえ俺は今の仕事を辞めねえぞ! 妹に養ってもらう未来なんて嫌だからな! 俺の振舞った夕飯は、桐乃に好評だった。 結構味に五月蝿い妹だからもっと文句を言われるかと思ったが及第点は取れたらしい。 食べ終わった後の食器を流しにいれながら、ふと思い出した事を桐乃に聞いた。 「そういや、おまえ、モデル辞めたって?」 確か昼間、さり気なくそんな事を言ってたよな。 「う、うん。……辞めた」 何だか桐乃は悪いことがバレてしまった子どもの様に罰の悪そうな顔をしている。 「なんで?」 そんな顔をされても、聞かない訳には行くまい。 こいつがわざわざ海外に行くまでの覚悟を決めてモデルを始めたんだから。 こんな中途半端な時期に辞めるってのがいまいち分からない。 雑誌とかで読む限り、順風満帆の様に見えたんだが。 「…………言いたくない」 しかし、桐乃は顔を背けて、説明を拒んだ。 「言いたくないって……、何か言えないことでもあったのか?」 イジメとか? 「そういうんじゃ……ないけど」 「じゃあ、なんだよ」 「い、言いたくないって」 どうも頑なだ。これは、何かしら明確な理由があって辞めたようだな。 そして、それをどうしても言いたくないらしい。 「そうか、分かった。おまえは旦那に隠し事をするんだな?」 「……ッ! い、言います」 なんてな、と適当に流す冗談のつもりだったんだが。 何で速攻で折れる訳? まさか桐乃にとって夫婦間には秘密が無いものだって思ってるのか? ……俺は秘密ぐらいあってもいいと思うんだが。 本当は、なんてな。夫婦間でも隠したい事はある、おまえが言いたい時に言ってくれ、という感じで格好良く閉めようと思ったんだが……。 やべえ、今後、隠し事しづらくなってしまったぞ……。 「その、わ、笑わないで欲しいんだケド」 「笑わねえよ」 つかやっぱ言うのやめたとか言ってくれても構わないぜ。 俺は決め台詞をスタンバってるんだからよ。 「あ、あんたが……居ないから」 「…………へ?」 「あの世界には……あんたが、居ないから」 すると何か? 俺が居ないから、あんな華やかな舞台から降りたってのか? いや、流石にそれは……。 「い、居ないって言ってもよ、言ってくれれば顔を出しにいったりしたぞ?」 「そ、そういうんじゃなくて」 「んじゃなんだよ?」 「……あの世界じゃ、がんがんに知り合いが増えていくんだけど。その分、あんたがいる世界が……遠くに見えてきちゃって」 …………。 正直、俺には分からん。 遠くに思えてきたなら、そう思った時に一旦帰ってくればいい。 ホームシックみたいなもんだろう、多分。 「それが辞める程のものだったのか?」 「う、うん」 少し自信なさげに桐乃はそう答える。 うーん、別に理由としてはありっちゃありだが、でもなんだろうな。 しっくりこない。 だってあの桐乃だぜ? だったら俺の手を引いて一緒にその世界とやらに巻き込みそうなもんだけど。 「……おまえの夢だったんじゃないのか?」 「夢……」 「そう。モデルって仕事は、おまえの夢だったんじゃないのか?」 ああいう華やかな世界で、一番目立ってみせる。 そういうのは女性の憧れなんじゃないだろうか。 「……夢、ってワケじゃない、と思う」 考えるようにして、桐乃はそう答える。 夢、じゃなかったのか。 「そんじゃ、おまえの夢って何よ」 そう言えば陸上とか、そんなんも続けてんのかね。 あいにく、そっちの雑誌じゃまだ桐乃の名前を見つけられてないけど。 「…………さん」 俺の質問に対し、顔を真赤にして俯いた侭、そう答える桐乃。 だが、正直全く聞こえなかった。 「ん、なんだって?」 だから桐乃の傍に顔を近づけて、そう尋ねる。 すると俺の首根っこを掴んで、桐乃は叫ぶように言った。 「あ、あんたのお嫁さん……ッ!!」 …………。 「わ、悪い? 言っておくケド、ずっと昔からそれが夢だったんだからね! ずっとずっと追いかけてきた夢なんだから、言ってしまえば、陸上もモデルもその過程だから……!」 …………。 陸上とモデルが俺のお嫁さんになるのにどう結びつくのか、全く分からねえ、分からねえが。 な、なんだこの可愛い生物。 俺の妹がこんなに劇的に可愛いわけがない。 嘘だろ、可愛すぎだろ。 つか20歳を超えた女が言う台詞じゃねえよ。 可愛いけどさ! 試しに自分で変換してみよう。 『お、おまえのお婿さん……ッ!!』 『わ、悪いかよ? 言っておくけどな、ずっと昔からそれが夢だったんだからな! ずっとずっと追いかけてきた夢なんだぜ? 言ってしまえばエロゲーもシスコンもその過程だぜ……!』 ……。よし、キモい。 「お、おーけい。わ、分かった。そっか、それでモデル辞めてきたんだな?」 「……え?」 「俺のお嫁さんになる為に、こうやって帰ってきたんだろ?」 「…………」 俺の質問に対して、桐乃は少し考えこむ。 そして、何か納得がいったのか表情が明るくなり、そして、俺を見て、びく、と目を見開くと。 「んなワケ無いでしょ馬鹿! このシスコン!」 俺にフキンを投げつけてきやがった。 やれやれ、女心は良く分からん。 夕飯を食べ終わり、風呂の時間となった。 いつもは面倒くさいのでシャワーだけで済ませてるんだが、桐乃も長旅で疲れてるかも知んないし、湯船を張っておいた。 そして、早速一番風呂に入ってもらおうかと、桐乃に提案をしたんだが、桐乃は何故か僅かに身体を硬直させて。 「い、いい。先にあんた入ってて」 と断ってきた。 一応、家主とかそういうのを気にしてんのかね。 確かに我が家はそんな決まりがあったが……俺は別にどうでもいいと思うけど。 入りたい順に入ればいい。 なので、桐乃が入らないというのであれば、じゃあ、俺が先にと入っているのが今。 髪も身体も洗い終わり、湯船に使って鼻歌でも適当に奏でてる矢先に、扉が開いたのが今。 手拭いサイズの布を頼りなさげに胸の前にぶら下げて、隠しきれてない身体を晒してるのは、今。 「………………」 俺は固まっちまってその桐乃の行動に何も返せなかった。 完全に思考がフリーズ状態。 いやその言い方は正しくないか。 正直に言おう。俺の視線は桐乃の身体に釘付けだった。 以前に見た未成熟の身体じゃなく、成熟した身体が目の前にあった。 ぷるんと存在感を主張しているおっぱい。 きゅっと引き締まったくびれ。 魅惑的な曲線を描いてるおしり。 よく絵画に裸身の女神が描かれてる事があるだろう? いいか、あれは全て偽物だ。 何故ならここに本当の女神が居る。 つんと立っているピンク色の乳首。 手拭いが隠しきれてない整えられた陰毛。 羞恥の為か、肌を赤く染めている全身。 身体だけでも魅力的なのに、その上にはモデルとして名を馳せた美女の顔がある訳で。 上から見ても下から見ても、見惚れるには十分すぎた。 ありえん……これ、現実なのか? よく二次元の世界に入りたいとかいう書き込みを掲示板とかで見るが考えなおした方がいい。 だって現実には圧倒的な存在感を放つ女神がいるんだぜ? しかも……エロい。 照れた様に顔を逸らすその顔や、腕で隠そうとして隠しきれてないそのピンク色や、手拭いが隠し切れないアソコが全て相成って。 とてつもなくエロい。 そこに居るのが妹だって、本気で忘れてた。 良識とか倫理とか、そんなのはもう何も考えられなかった。 ただ、俺の海綿体は正直に限界まで膨張し。 そして、恐らくアホづらを晒したまま固まっている俺の口から漏れた言葉は、ただ、 「……綺麗だ」 の一言のみ。 ……俺の予想した通りだったよ。 数年後じゃなくてよかったと、俺はあの時病院で思ったものだが、まさしくその通りだった。 今の俺でさえ、堪え切れない衝動が身体を駆け巡っているというのに、あの当時にこれを見たらきっと鼻血を噴き出して再起不能だっただろう。 触りたい、触れたい、近づきたい。 その衝動が駆け巡るのをどうにか抑えようとしたがら、俺は桐乃に声を掛ける。 「あ……あ……」 言葉になってなかった。 というか言葉に出来なかった。 思考がまるで回らない。 頬がかぁーと赤くなって視界がどくどくんと脈動する。 気を失わないようにするのが精一杯だった。 「……せ、背中……流してあげる」 だから桐乃のその提案に、ただ阿呆の様にこくこくと頷いてみせることしか出来なかった。 そして、湯船から出て、前を隠すの忘れていて、桐乃に凝視されたが、そもそも手拭いなんて持って入ってない。 だから隠すのも手しかないんだが、手じゃ隠し切れない。 だからという訳じゃないが、いっそ開き直った気分で隠すことなく、桐乃の前に歩き、そして背中を向けて座った。 背中を見せて、桐乃が視界から消えて、漸く俺は思い出したかのように息をした。 バクバクバクと心臓が全身を揺らす勢いで脈動する。 「じゃ、じゃあ、あ、洗うね」 「…………おう」 どうにか絞りだすようにして声をだす俺。 桐乃はそのまま、俺の背中にスポンジを当て、洗い出す。 今、背中に全裸の桐乃が居る。 ただそれだけで俺の海綿体は脈動し、俺の心はどこまでも欲求を主張する。 今直ぐ振り返って押し倒して、その身体を触りまくって、そして、欲望を放出したい。 桐乃が俺の背中にスポンジを当てるそれだけで、全身が性感帯になったように感じてしまう。 だ、駄目だ、このままじゃ俺……し、死ぬ! リアルにその域まで達していた。 これが本能という奴なのか、理性など脆くも消し去ってしまうのか。 本能を無理やり押さえつけると気持ち悪くなる事をこの時、始めて知った。 目の前が真っ暗になりそうで、視界がグラグラとして、鼻腔に桐乃の匂いが掠めて。 襲いたいとか、襲いたくないとかそういう次元じゃなく、本当に生命の危機を覚えて俺は立ち上がる。 「……や、やっぱいい。で、出る。俺、出る」 背中に泡がついているのが分かったが、それよりも俺は死にたくなかった。 今、意識を失ったら死んでしまう気すらした。 しかし、ここから出る為には、桐乃の方を向く必要がある。 駄目だ、今、見たら俺は死ぬ。 桐乃の方に振り返りつつも、俺は桐乃を見ないようにして、その脇を抜けようとする。 「……ま、待って。まだ背中が……あ」 丁度、桐乃の視線の先、俺の海綿体が溢れんばかりに存在感を主張して通り過ぎようとしていた。 「……待てって、言ってんの!」 そして、桐乃はいつか、俺を止めようとしたその時と……同じようにはせず。 俺の足を掴んだ。 「は……離せ!」 割とリアルに生命の危機に対面していた俺は、必死で抵抗する。 だが、桐乃も負けじとばかり俺の足を掴んで。 「く、口でするから……!」 とんでもない事を主張した。 「な、なななななにを」 「ば、バナナで練習した。イケる、筈」 俺はそんな事を聞いてるんじゃねえ! なんでそんな発想になるのかって聞いて……ちょ……! つい桐乃に文句を言う為に桐乃を視界に入れてしまった。 そこには上目遣いで、俺を見上げる桐乃の姿。 目が……離せない。 俺が立ち止まったのを了承としたのか、桐乃は何故か正座をして居住まいを正して。 キリ、と無駄にいい表情で、恐る恐る俺の……。 俺の海綿体を、口に運んだ。 れろ。 「~~ッ!! あ、あああ、あ!」 途端に信じられないぐらいの快感が……いや、これも痛さだ。 許容できないぐらいの快感はもう痛みでしかない。 しかも初っ端から口に咥えやがった、初めは舐めるとかそうやって徐々にやってくだろ?! こ、これがバナナな効果なのか……!? 膨張しきった海綿体は、感覚に対してどこまでも敏感になる。 だから、桐乃が口に咥えたその唇の柔らかさ。 腔内のじっととしたヌルさ。 ……そして、這うように舐めてくる柔らかくも熱い舌がダイレクトに感じられた。 「うあ……あ、あああ、あああああ!」 痛い、痛い、気持ち悪い、気持よすぎて吐き気がする。 桐乃はそんな俺の事なんて知ったことないとばかりに、口での奉仕を続ける。 少し舌は離れた、と思ったらまた舐めてくる。 そしてその離れた意図を知る。 ……唾だ、唾を舌に貯めて……。 くそ、世の中のバナナはそんな高等技術まで教えてんのかよ! ヌルっとした感触により艶めかしい熱さが追加される。 そして、ジュル、と吸うような感覚。 「……ッ、ああ、あああ、やあ、あああ!」 腰がガクガクする、もう何もかもわからなくなる。理性が何を我慢してるのか、そもそもどうやって我慢するのか。 それすらも分からなくなって。 「ああああ、あああああっ!!」 視界が真っ白になって。遠くて近い先で、俺の海綿体が欲望を吐き出してるのが分かった。 ただまるでフィルター越しで、自分が射精している事に実感が沸かなかった。 桐乃も、何かが出された事に慌てた様子を見せていたが、決して口を離さない。 ただ少し涙目でこちらを睨んでいる。 出すなら出すって言えって事だろうか。 寧ろ俺はそれを自身に対して言いたかった。 そして……出し終えた後、俺はかつてない脱力感に襲われていた。 下に椅子もないのに壁に寄りかかるようにして、そのまま座ってしまう。 キョポ、なんて音を立てて桐乃の口から俺の海綿体が抜けていく。 その拍子に、口元から白濁とした液が少し溢れるのが見えた。 あろうことか、桐乃はそれを舌で舐めとってみせる。 そして、凄い嫌そうな顔で、こくこく、と喉を鳴らした。 「……おま、飲んだのか?」 「うえ。誰よ、美味しいっていったの。苦いっていうか酸っぱいっていうか……なんかピリピリするし」 少なくとも俺は美味しいだなんて言ってないし、かなり高い確率でそれエロゲの知識な。 「………?」 そして桐乃は改めて俺を見る。今しがた艶かしい行動をしたと思えない無防備な表情で、ぽけーっとした後、にっと笑った。 「……ね、ね、気持ち良かったっしょ?」 …………。 どう答えたものか。 正直に言うと、気持よくなかった。 ただそれはヘタだったとかそういうんじゃなくて、上手すぎたというのだろうか。 或いは俺の性における感覚が繊細なのか。 気持よすぎた挙句に、気持ち悪い領域だった。 「……次からは、もう少し控えめにな」 だから俺はそう返すしか無かった。 余りの脱力感に浴槽から出れずに居る俺の前で、桐乃は身体を洗い始めた。 このまま風呂に入ってしまうらしい。 ……少しは俺が居る事に動じろよ。 いや、動じる必要はないんだろうけどさ。 この脱力感……マジ動けないんですけど。 ……はっ! ま、まさかこれが骨抜き? 腰砕け? え、え、え? 俺、開始速攻で妹に骨抜きされちゃったわけ? マジで? そんなんでいいの、俺? う、うう、こんなんだったらもう少し経験を積んでおけば良かったな。 貞操観念なんて糞食らえだっつーの。 俺が、そう考えながら動かぬ身体と葛藤していると、桐乃がちらっとこちらを見てきた。 「ふひひ」 そして俺と目が合うと餓鬼っぽく笑ってみせる。 女性的な笑みじゃなかったが、何だか昔を思い出して、可愛い奴だなあ、と思ったりもする。 さっき、人のナニをバナナがわりにしてたとは到底思えない。 そうして、ひと通り身体を洗い終わり、桐乃は身体を流して、そのまま湯船へと入っていく。 俺そっちのけだ。 暫くして、桐乃がようやく訝しげな顔をこちらに向けてきた。 「……あんた、なにやってんの?」 「……やっと聞いてくれたか」 ふ、このまま置いていかれたらどうしようと思ってたぜ。 「いや、男の人って抜いた後、そう暫く放心する習性でもあんのかなって。 なんだっけ、賢者モードって奴?」 こんな力が抜けきったタコみたいな賢者モードがあってたまるか。 「……動けねえんだよ」 「へ、なんで?」 ……すげえ言いたくねえ。言いたくねえが、仕方ない。 「た、多分、骨抜きにされた……んじゃねえかな」 「……骨抜きってそういう意味だっけ?」 浴槽に浸かりながら、桐乃はそんな事を言ってくる。 ……あれ、違ったっけ? 「と、取り敢えず……腰が抜けて立てないんだ」 だから、手を貸してくれ、とそういう意図だったのだが。 俺の言葉に暫し考えこむようにして黙ってしまう。 ……何か嫌な予感がする。 「ふひ、ふひひひ」 桐乃が嫌らしい笑みを浮かべはじめた。 もう嫌な予感しかしない。 「ほんとはー、こう、もっとロマンチックなのに憧れてたんだけど」 そう言いながら桐乃は、湯船から立ち上がる。 先ほどまで隠れていた魅惑的な身体がまた、俺の眼前に晒される。 一度抜いたから……初めほどじゃないけど、やっぱ綺麗だな……。 そしてエロい体つきをしてやがる。 ただ少し隠せ。 最初の恥じらいは何処にいった。 「ふひひひ。ま、こういうのもアリかな」 笑みを浮かべながら近づいてくる桐乃。 動けない俺としては恐怖の対象でしか無い。 なに、なに、なにされんの? 俺の眼前までやってくると、その場で腰を下ろした。 俺を跨ぐようにして。 「……な、なにを」 そ、その位置関係だと、あれが、これに当たんだろ!? 「ふふん」 当ててんのよ、と言いたげに桐乃は悪戯を企む子どもの様な眼差しを向けてくる。 「ま、まさか……」 俺の海綿体は、今は落ち着いている。 そう、だから決して、入る事は……無い筈だ。 だが、その海綿体に対し、桐乃は自分の秘所を押し付けてくる。 「な、なななな」 「へえ……、ホントに出した後って柔らかいんだ?」 しかも、いやらしく腰をグラインドさせながらだ。 「お、おまえ、は、はじめてなんだろ?」 「そだよ?」 自分の秘所を海綿体に擦りつけながら、桐乃は言う。 ムードもへったくれもない。 「は、はじめてならもっとほら、こう、布団でさ、く、暗くしてさ」 「なになに、そういう感じが希望だった?」 いや俺が希望してる訳じゃなくて、そ、そういうもんじゃないの? 「確かに、そういうのも憧れだけどさ。でもどうせあんただし? そういう展開って期待できそうにないし?」 いやいや出来るよ、そんぐらい出来るって! 流石に高級レストランとかそういうのは難しいけどよ! 「それに最近のエロゲーだとこう、結構あっけなくやっちゃってんだよね」 「エロゲーと現実を一緒にしてんじゃねえ?!」 く、くそ、力が入らねえ。 い、言っておくがエロゲにありがちな力が入った瞬間、桐乃の腰を掴んで、みたいなそういう意味で力を渇望してんじゃねえぞ? 俺はだな、せめて、妹の初体験をより良い物にしようとしてだな……。 つか俺が嫌だ、こんなレイプみたいなの……! 「……あんたのそういう泣きそうな表情、ぞくぞくするんだけど」 お、俺の周りの女はSばかりなのかよ!? 前にあやせにも似たような事言われたな。 「あれ、なんかおっきくなってない?」 「んな馬鹿な……」 こんなシチュエーションじゃおっきくならねえよ。 俺はMじゃねえんだからな。 …………。 か、海綿体が反乱を起こしてる、だと? 「も、もしかしてこのままだったら入っちゃう? かも?」 「んじゃ止めろよ、今すぐに?!」 かも、じゃねえよ! 「でもちょっと……き、気持ちいい、カモ」 …………ッ! 「あ、びくってした」 ば、ば、ば、馬鹿、この馬鹿! そ、そんなん言われたら反応しちゃうだろ、俺の海綿体とか色々が! 海綿体が大きくなってきたせいか、感覚もシビアに伝わってくる。 さっきまで柔らかかったから、こう暖かいなとか、擽ったいなあ、みたいな感じだったんだが。 今はこう、明確に今どこにアレが当たって、何処に擦りつけられてるのかが分かる。 一度出したお蔭か、最初ほど明確な感覚じゃないんだが……。 シチュエーションがさっきより不味い。 さっきは殆ど身体の暴走だったけど……。 滅茶苦茶えっちな身体で、そして俺好みの顔つきをした処女が、俺の上で腰をグラインドさせてんだぜ? しかも時折Hな声を出しながら、少し息を切らせながら。 不味いって、不味い! 俺、今力が入らない事を逆に感謝すべきだな。 さっき否定したが……、スゲエ、腰を掴みたい! そして抱きしめて腰を振りたい、この目の前でたゆんたゆんしてるおっぱいを鷲掴みしたい。 柔らかそうな身体を全力で抱きしめたい。 しかし、俺の身体は腰が抜けている状態。 全身、余すことなく脱力感。 ただ俺の海綿体だけが元気を取り戻したかのように硬度を取り戻していた。 そして、その海綿体をまるで道具のように擦りつけてくる桐乃。 「は、始めてなのに気持ちよくなっちゃいそう……」 「まだ挿れてねえから、それ、挿れてから言う台詞だから!」 「じゃあ、……挿れちゃう?」 声の艶が変わった。 ぞくんと俺の背筋が凍る。 先ほどまで浮かべていた悪戯小僧の様な笑みをそのまま妖艶な表情に変えて。 「え、そ、その……冗談だよな?」 「……なんで?」 そんな問答をしている最中にも、桐乃は腰のグラインドを止めない。 桐乃がそれを押し付けくる度に、俺の海綿体がそこを押し開いていくのが分かる。 一番初めの扉は、もう既に何度もこじ開けている。 ヌルヌルっとした感触が、どんどん艶かしくなっていく。 熱い、どんどん熱くなっていく。 なんかおもらしをしてしまったような感覚でようやく気付いた。 ……濡れてる。 「……ぁ……ちょっと……ホンキで気持よく」 手が掴むものを探して宙を彷徨い、そして俺の首へと纏わりつく。 そして俺の身体に抱きつくようにして、桐乃はくっついてきた。 首に回された腕がしっとりとして柔らかい。 桐乃の顔が直ぐ近くにあって、可愛らしい声を小さく上げている。 そして……何より今、俺の胸に当たっているぷにっとした感覚。 うおおおおおおお、くそやわらけええ!! 触りてえ、もみしだきてえ! ヤバい、ヤバい、これはヤバい! なに、こんなのが世界に存在してたの? 前も同じような衝撃を味わったが、今回はそれに加えて、デカい。 手で掴んだとしても幾分か溢れだしてしまうだろう。 さ、更に……。 なんかコリコリしたのが俺の胸に当たっている……! これは言うまでもなく、アレ、アレですよね……!? おおおおおお、さっきとは違う意味合いで死にそうだ……! 蕩けちまうんじゃないか、俺。 もうスライムだよ、これスライムに襲われてるレベル。 そしてさっきから俺の海綿体が桐乃の秘所に突入しかけては引き返すような感じになってきている。 一瞬でも俺が腰を浮かせたら、そのまま突入してしまいそうなギリギリのポイント。 そのポイントだと知って、桐乃はぎりぎりの感覚でグラインドを続けている。 いや、桐乃は桐乃で、力が抜けないよう必死なんだ。 だから俺の首をこんなに必死で掴んで。 少しでも油断したら……入っちゃうから。 「ぁ、あ、ぁあ、ん、んんぅ……!」 もう耳には喘ぎ声しか聞こえない。 どうやら桐乃のスイッチはもう入ってしまっているようだ。 まるで触ってほしそうにおっぱいを俺に押し付けてくる。 しかし、手は動かない。 やがて桐乃の明確な意思が伝わる行動が見えた。 少し、腰を上げて、おっぱいを俺の顔の高さまで持ち上げてくる。 その侭、俺の顔に抱きつくようにして押し付けてきた。 位置、そして距離、そう丁度、俺の口に桐乃の乳首が来る形だ。 これは、そう、舐めるしかない、含めるしかないだろう。 だから俺は全力で桐乃のそれを唇で咥える。 そこから更に舐めようと舌を這わせて……。 「んぁっ!!」 一際高い嬌声があがった。 お、気持ちいいのか? と俺が少し喜んだのも束の間。 桐乃はそのまま、足の力が抜けたのかガクッと身体を落とす。 ……え? それって。 俺が一瞬、そう脳裏を掠めて―― その次の瞬間、俺の海綿体が何だかとてつもないものに包まれた。 とてつもない、としか形容が出来ない。 なんかヌルヌルしていてヌメヌメしているのはどうにか分かる。 そして根本部分がひくひくと締め付けていて、そこから先はまるでぬとーっとした何かに包まれているようで。 そして、……蠢く。 先ほどの圧倒的な快楽じゃなかった。 けどこれは……純粋に、純粋が侭に気持ち良かった。 ぬるま湯に使っているような暖かい快楽。 おもらしをしてしまっているような熱い感覚。 そして恐ろしい事に、俺の海綿体がその感覚に膨張すればする程、その快楽も強まっていくのだ。 その快楽にビクンと海綿体にちからを入れると、ひくんとその俺を包む何かもも反応して、じんわりと圧力を増してくる。 な、な、なんだこれ。 気持ちいい、という形容しか出てこない。 正直、これで全身が包まれたらヤバいんじゃないかと思うぐらいだ。 海綿体しか侵入出来ない事が歯がゆい。 そこまで考えて、ようやく気付いた。 今、何が起きているのか。 俺の首に抱きつく形に戻っている桐乃。 だが顔を俯かせてこちらにその表情は見せない。 ただ首に巻き付く腕が強く巻かれて、爪が、少し俺の首を引っ掻いてるのが分かる。 ……痛いのだ。 余りの痛さに、手近な何かを掴まざるえない。 「こ……この馬鹿! は、早く抜けって!」 慌てて桐乃にそう声を掛ける。 つか、こんな事故みたいな処女喪失があってたまるかよ! 「……な、……なんで」 痛みを堪えてるような、声。 しかし桐乃から返ってきた言葉は疑問だった。 「な、なんでって、痛いんだろ? キツいんだろ? なら早く抜けって」 「……やだ」 決して肯定はしなかった。 けど否定だってしやがらない。 痛いのだ、キツいのだ。 しかしそれであっても、嫌だと、桐乃は言う。 「な、なんで?」 「…………」 俺の首に纏わりついてくる手に力が込められた。 そして、俺の胸に縋るように顔を押し付けていた桐乃がそのまま顔を上げる。 「……ちゅーして」 な……。 それは場に似つかわしくないようで、しかしこれ以上に相応しい言葉だった。 だが、その言葉で、俺は気付いた。 キスよりも先に、処女を奪ってしまった。 ……やっちまった。 順番が、違うだろうに。 申し訳ない思いと共に、俺は頷く。 と言っても殆ど身体は動かない訳で、ただ、少し桐乃の方へと顔を近づける。 それだけで届く距離に桐乃の顔はあった。 子どものような、口を合わせるだけの軽いキス。 ただそれだけなのに、桐乃の顔は今よりももっと真っ赤に染まって。 腕に纏わりつく力が強くなって。 俺の海綿体を優しく抱きとめるそれがキュッと締まり。 びくんびくんと、桐乃の身体が跳ねた。 一瞬、何が起きたのか分からなかった。 痛さの余りに痙攣したのかと思った。 けど、桐乃の表情を見て分かった。 なんて気持ちよさそうな顔をしてやがるんだ。 目がとろんとして、真っ赤で、少し虚ろげな視線で俺を見て。 そして自分から近づいてまたキスをする。 それだけで、またびくんと身体が跳ねて。 キュッと締まって。 ……愛おしい。 俺はただその感覚に包まれた。 愛してる、でも、好きだ、でも、抱きてえ、でもなくて。 ただ大きな感情として、愛おしい、という気持ちが込み上げてきて。 「う、で、出るッ……!」 俺は、それを離れろという意味合いで声に出した。 けど、桐乃がした行動は寧ろ逆で。 俺を絶対に離さないとばかり抱きついて。 ただ一言。 「うん」 と言った。 もう止められない。 俺はただ全力で込み上げてきた感情と共に、欲望を桐乃の中へと放出する。 ドクン、ドクンと脈打つ。 これが俺の鼓動なのか、桐乃の鼓動なのか分からなかった。 ただ放出しながらも、俺の中に賢者モードが訪れ始めていても。 この愛おしいという大きな想いは、決して薄まることはなかった。 // そして夜。 あれから、どうにか桐乃の協力もあって浴槽から脱出した俺は、布団に寝かされていた。 流石に二回も短期間で大量に放出しただけあって、ヤバい気だる感だった。 しかし、桐乃だって処女の喪失で絶対疲れている筈だし、痛い筈だ。 だから俺は張る勢いで、自分で動けると主張したんだが。 「あたしにやらせて」 の一点張りだった。 しかもその上、俺の額にキスまでして行きやがった。 そんなこんなで、布団の上で俺は、考えている。 別に後悔なんて、何ひとつもなかった。 これから、色んな闘いがあるだろうが、そんなもの些細な事に思えた。 ただ、俺は今、心に沸き上がっていく一つの衝動の捌け口を探していた。 ……いや、捌け口なんて、考えるまでもないか。 ただ、想いは伝えるものなのだから。 伝える為に、俺はこの口を持っているのだろう? 「桐乃!」 俺は愛しい人の名を呼ぶ。 旅行かばんから服とかを取り出して、狭いタンスに必死に詰め込んでいる桐乃は、手を止めて俺を見る。 「なに? も、もしかして具合悪い?」 「いや、具合は大丈夫だ。あともう少ししたら漸く力が回復しそう」 なんか黒猫が好きそうな台詞だな。 「そう。んじゃ、どしたの?」 手を止めるだけじゃなくこちらにトテトテと近づいてくる。 やはりまだ痛いのか、少しぎこちない歩き方だった。 その事を見られていると気付いたのか、桐乃が照れたように笑う。 「えへへ……、やっちゃったね」 …………。 今から想いを放とうとしてんのに、余計高めやがったぞ、こいつ。 言っておくが、どうなっても知らねえからな。 さっきから愛しさが爆発しそうなんだからな。 「桐乃……よーく聞いてくれ」 今は夜中だ。 正直、不味いと思う。 けど、この衝動は我慢なんて出来ない。 苦情なんて、知ったことか。 寧ろ、周りの住民も聞きやがれ。 これが俺の崇高なる……愛の言葉だぜ! 「俺はな、おまえが大好きだああああああああああっ!!」 どの時空の俺だって、恐らく初めの言葉こうなんじゃないかと思う。 桐乃に想いを告げるのには、凄い力が居るのだ。 この胸に湧き上がる情熱が、余りにも強すぎるが故に。 「だから……結婚してくれ」 「…………うん」 「ずっと、側にいてくれ」 「……うん」 「俺が、幸せにしてみせるから」 「うん」 桐乃はとても優しい表情で、そう答えた。 「知ってたよ、あたしを幸せにできんのは、あんただけだって」 本当はもっと沢山の言葉をぶつけてやりたかったのに。 言葉が詰まってしまう。 ただ、ただ、涙が出てしまう。 ああ、駄目だ。 これじゃ全然足りない。 こんな時間だけじゃ、絶対伝えきれない。 だからさ、桐乃。 これから長い時間をかけて……おまえに伝え続けるから、覚悟しておけよ。 俺の妹がこんなに愛おしいわけがないって事……、伝えてやるからさ。 おわり。
https://w.atwiki.jp/orenoimoutoga/pages/173.html
桐乃「あー、お帰り!」 京介「おう、ただいま。お袋達もう出たのか?」 桐乃「うん。もう出かけた。久しぶりの夫婦水入らずだからってはしゃいでたよ。 今日はあやせに教えてもらったレシピでカレー作ったんだよ。 ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・し?」 京介「風呂」 桐乃「ハァ!?そこは私じゃないのー?」 京介「なんだそのエロゲー的展開は。最近のお前エロゲーのやり過ぎだろ。 昔はちゃんと現実とエロゲは区別してたのに、最近のお前、現実とエロゲーがごっちゃになってきてるぞ。 今日は暑かったからお風呂入ってからすっきりしてからカレーはごちそうになるよ」 桐乃「成る程!気を使ってくれてるのね!じゃあお風呂一緒に入ろっか!」 京介「うるせぇよw入るなら先入れよ」 桐乃「先シャワー浴びてこいよ、ってこと。オッケ!任せて!」 京介(何かこの妹めんどくさいんだけど・・) 桐乃が風呂に入ってる間にカレーを食って、風呂は起きてから入ることにして手と顔だけ洗って、 カレーうまかったよって書きおきだけ残して着替えて寝た。 ちょっと前に目が覚めて何かいい匂いがするな?って思ったら桐乃が隣に寝てた。 いい匂いは桐乃のシャンプーの匂いで、何でここで寝てるんだろとか思ったんだけど、 起こすとまた何かめんどくさくそうだからそのまま寝かしといた。
https://w.atwiki.jp/oreimopsp/pages/16.html
フローチャート図 ↓ ↓ ↓ + → → → + ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ + ← + ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ + → + ↓ ↓ ↓ + ← + ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ + → + ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ + → + ↓ ↓ ← + ← + ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ + ← + ↓ ↓ ↓ シーンリスト No.001 俺の妹 ▲ インフォメーション 旅館を探検 ???? 俺の妹がこんなに可愛いわけがない ???? No.002 バーストする部屋 ▲ ツーショット会話 桐乃 ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × 誤解なんだ ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × 見てねーよ! ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × 違う! OK OK OK OK OK OK OK OK 緊急回避なし→何でもOK No.003 高坂桐乃 ▲ No.004 真妹大殲シスカリプス ▲ O.R.E.「シスカリのゲーム大会」取得 ↓ O.R.E.使用 シスカリのゲーム大会 → O.R.E.「大会の賞品」取得、桐乃・黒猫・沙織ルート 未使用 → 麻奈実・あやせ・if加奈子ルート→またの名を地味子へ ↓ ツーショット会話 桐乃 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × × × × × イエス! ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × 言ってねーぞ ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × 無理! ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × 拒否権はねーのかよ! OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK 緊急回避なし→何でもOK ツーショット弾幕ヒント:◯◯◯◯ No.005 崇高なる作戦 ▲ No.006 いないよりはまし ▲ No.007 エクササイズ ▲ O.R.E.「全国クラス」取得 ↓ O.R.E.「冷静になれ!」取得 ↓ ツーショット会話 桐乃 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × × × × × 頭冷やせ! ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × バカにすんな! ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × 受け入りだろ! ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × 時間泥棒か! OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK 緊急回避なし→何でもOK ツーショット弾幕ヒント:×××◯ No.008 反駁と説得 ▲ O.R.E.使用1 全国クラス → 黒猫好感度↑? 未使用 → ↓ O.R.E.使用2 冷静になれ! → 未使用 → ↓ ツーショット会話 黒猫 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × 桐乃のことか? ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × - - - - まじか… ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × 手先じゃないぜ ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × なんだって? UE UE UE UE OK UE UE UE UE UE UE UE 緊急回避なし→◯×◯◯ ツーショット弾幕ヒント:◯×◯◯ No.009 チーム分けは置いておいて ▲ O.R.E.使用 シスカリのゲーム大会 → 沙織好感度↑? 未使用 → ↓ O.R.E.使用 大会の賞品使用 → 桐乃ルートフラグ→大会打ち上げへ 全国クラス使用 → 黒猫ルートフラグ→壁越しの懊悩へ 未使用 → 沙織ルートフラグ→大会打ち上げへ No.010 またの名を地味子 ▲ ツーショット会話 麻奈実 ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × 違う ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × なに言ってんだ! ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × 遠慮しとくわ UE UE UE UE UE OK UE UE 緊急回避なし→×◯× No.011 来週の修学旅行 ▲ インフォメーション 修学旅行 清水寺の縁結びの滝 北野天満宮 No.012 壁越しの懊悩 ▲ インフォメーション 勝率は高い方がいい No.013 人生相談 ▲ O.R.E.使用 全国クラス → 未使用 → O.R.E.使用 勝率は高い方がいい → 未使用 → No.014 ゲーム大会当日 ▲ No.015 ヌキなしの ▲ ツーショット会話 黒猫 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × × × × × × × × × びびらねえよ! ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × × × ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × × × 言いすぎ! ◯ ◯ ◯ ◯ × × ◯ ◯ ◯ ◯ × × ◯ ◯ ◯ ◯ × × ◯ ◯ ◯ ◯ × × ハンデ言うな! ◯ ◯ × × - - ◯ ◯ × × - - ◯ ◯ × × - - ◯ ◯ × × - - ハンデ言うな! ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ふざけんなよ! UE UE OK UE OK UE UE UE UE UE OK UE UE 緊急回避なし→◯◯◯×◯、◯◯×◯、◯××◯ No.016 勝利を信じて ▲ No.017 大会後 ▲ No.018 黒猫の実力 ▲ O.R.E.使用 大会の賞品 → 未使用 → No.019 大会打ち上げ ▲ O.R.E.「ラジ館」取得 ↓ O.R.E.「メイト」取得 ↓ O.R.E.使用 ラジ館 → O.R.E.「しすしす」取得、桐乃好感度↑? メイト → 沙織好感度↑? 未使用 → No.020 奇妙なメニュー ▲ O.R.E.「電波ソング」取得 ↓ ツーショット会話 桐乃 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × × × × 電波ソング ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × ◯ ◯ ◯ ◯ × × × なに言ってるの? ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × ◯ × × やかましいな! ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × × ◯ × なんだそれ! OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK OK 緊急回避なし→ ツーショット弾幕ヒント:◯◯◯◯ No.021 でも電波ソン(ry ▲ O.R.E.「ノートパソコン」取得 No.022 沙織の奇妙な告白 ▲ O.R.E.「お見合い」取得 No.023 休憩終了 ▲ O.R.E.「ただの人生経験」取得(沙織ルート時) No.024 しすしす ▲ O.R.E.使用 しすしす → 桐乃好感度↑? 未使用 → ↓ ツーショット会話 桐乃 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × × × × さらさらねえ! ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × ◯ ◯ ◯ ◯ × × × わかんねー! ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × ◯ × × 言ったじゃねーか! ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × × ◯ × なんだそれ! OK OK OK UE OK UE UE UE OK UE UE UE UE UE UE 緊急回避なし→◯◯◯◯、◯◯◯×、◯◯×◯、◯×◯◯、×◯◯◯ ツーショット弾幕ヒント:◯◯◯◯ No.025 みやびちゃん ▲ O.R.E.使用 シスカリのゲーム大会 → しすしす → 未使用 → No.026 ファンディスク ▲ No.027 新垣あやせ登場 ▲ No.028 麗しき彼女のお悩み ▲ No.029 桐乃になにが? ▲ No.030 明日の京(介) ▲ No.031 嘘だと信じたくて ▲ ツーショット会話 麻奈実 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × × × × × 嘘だ! ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × んなわけあるかぁ ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × バナナって! ◯ × - - ◯ × - - ◯ × - - ◯ × - - ノーパン - - ◯ × - - ◯ × - - ◯ × - - ◯ × 大丈夫! OK UE UE UE UE UE UE UE OK OK OK UE OK UE UE UE 緊急回避なし→◯◯◯◯、×◯◯◯、×◯◯×、×◯×◯、××〇〇 ツーショット弾幕ヒント:×◯◯◯ No.032 出発前夜の狂想曲 ▲ O.R.E.「安倍晴明」取得(黒猫ルート時) O.R.E.「平安アニメーション」取得(沙織ルート時) O.R.E.「老舗和紙店のあぶらとり紙」取得(あやせルート時) ↓ ツーショット会話 桐乃 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × × × × × こんなに! ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × こっちの台詞! ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × 俺にだって! ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × ◯ × × ◯ ◯ × なんでそうなる!? UE UE UE UE OK OK OK UE 緊急回避なし→、、××〇×、××〇〇、××〇× ツーショット弾幕ヒント:××◯◯ No.033 寄せられる期待 ▲ No.034 到着★京の都 ▲ ツーショット会話 麻奈実 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × × × × × さすがにそれは ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × ◯ ◯ ◯ ◯ × × × × 知恵袋かよ! ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × ◯ ◯ × × どうすんだよ? ◯ × - - ◯ × - - ◯ × - - ◯ × - - 誤解なんだ - - ◯ × - - ◯ × - - ◯ × - - ◯ × 嘘じゃねー! UE OK OK OK UE UE OK UE UE UE OK UE UE UE UE UE 緊急回避なし→◯◯◯×、◯◯×◯、◯◯××、◯××◯、×◯×◯ No.035 物見遊山にいざ出発 ▲ インフォメーション ご当地メルル No.036 逗留所にて ▲ No.037 土産談義、そして ▲ インフォメーション モテモテ No.038 麻奈実の笑顔 ▲ No.039 増してゆく荷物 ▲ No.160 if・とある京都面妖編 ▲
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/265.html
349 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2011/03/09(水) 15 01 28.52 ID aphiU9Ato [9/21] 「んあ……」 あー……、朝か。 陽光がカーテンの隙間から差し込み、陽気なスズメ達が新しい一日の訪れを歓迎している。 俺は体にかかっているシーツをどけ、上体を起こした。俺は裸で寝ていたので、今はちょっと寒い。それにしても……あー、頭痛えぇぇ。 右手で頭を押さえながら、左手でベッドを押し、立ち上がろうとした俺だったが…… むにゅ♪ あー、なんだ?今の感触は。 その正体を探ろうと、俺は左手がある方向へ目を向けた。そこには……一糸纏わぬ姿を惜しげもなく曝け出している超美女がいた。 「へ……?」 え?ちょっと待て。このお美しいご婦人はどちら様?何で俺のベッドで寝てるの?しかも裸で。 なんとか寝る前の記憶を探ろうとするも、さっきから引いてくれない鈍痛が、俺の思考を妨害する。 ダメだ……、思い出せん。つか、ここドコ?よくよく見たら俺の部屋じゃねえぞ!? え?いやマジでどうなってるの?そういえば、何で俺も裸? 朝起きたら見知らぬ部屋で、隣には知らない美女がいて、お互い裸……だと……?軽くホラーじゃねえか!? オーケーオーケー。落ち着けよ、俺。まずはこの状況を冷静に整理しよう。 Q.ここはドコだ? A.知らない部屋だ。 Q.何故、俺は裸? A.まったくわからん。 Q.この隣の美女は? A.存じ上げない。 ……なるほど、わからん。何もわからんことがわかった。 って、何にも解決してNEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!11 と、とりあえずだな、まずは服を着よう。うん、それが良い。そうしよう。ちょっと寒いしな。 今にも声を張り上げそうな自身を抑え込み、俺は室内を見渡す。俺の服はベッドのすぐ傍に有った。 下着を身に着け、ジーンズを穿きながらも俺は考えていた。昨日の夜は、何してたっけか? 確か……、うん飲んでた。外で飲んでたんだ。しかも俺一人じゃなかった。誰とだっけか? 服を全て身に着け、昨日の行動を何とか思い出そうとしている俺の耳に、可愛らしい声が届く。 「んぅ……」 ここで言い訳をさせてほしい。俺は昨日の行動を思い出すだけで精一杯だったんだ。だからさ、失念していたんだよ。ベッドで寝ていた女性が……裸だったのを。 首だけベッドの方向に向けた俺は、その姿勢のまま固まった。 考えてもみてほしい。顔だけじゃなく、その肢体もパーフェクトと言わざるを得ないスーパービューティーが、寝ぼけ眼でこちらを見ているんだ。 男性諸君、君達ならばわかるだろ?そんな神の作品……、いや美神が目の前で無防備な姿をしていたら、俺と同じ反応になるはずだ! 「あ、おはようございます。京介お兄様」 おまけに声も美しいだと!?なんだ、この完璧超人は!これでメガネを掛けていたら、もう言うことは無い!断じて無い!! ……ん、ちょっと待てよ。今、このヴィーナスは俺の名前を呼んだ。それはいい。だが、普通の呼び方じゃ無かったよな? このアフロディーテは何と言った?――――「京介お兄様」だと? 「え?お、おま……おま……」 「あ、あの……。そんなにジロジロ見られると、恥ずかしいです……///」 ご婦人は体を覆っているシーツを口元まで持っていき、頬を赤らめながらそんな可愛いらしいことを言ってきやがった。 ぐふっ!圧倒されただと!? 俺はそんなサービスシーンを前にしながらも、なけなしの理性を総動員させて目を背けることに成功した。自分で自分を褒めてあげたい。 視線をどこに向ければいいか迷っている俺の背後では、小さな衣擦れの音が聞こえてくる。おそらく、先程の女性が服を着ているのだろう。 くそう、なんでこういう時って聴覚が敏感になるんだ?この原理を解明できたらノーベル賞取れるんじゃねえか? 俺は脳内を駆け巡る様々な疑問や邪念を振り払いながら、なんとか後ろにいる女性に話しかけた。 「あ、あの……つかぬ事をお聞きしますが……。沙織さんですか?」 「へ……?もう、何を仰っているんですか?わたくしは沙織ですよ……ふふっ」 やっぱりそうだ!俺のことを「お兄様」なんて呼ぶのは沙織だけだもんな!しかもお嬢様モードの! あー、良かった。沙織だったのか。ふぅ、焦って損した。 ……あれ?そうなると、俺は沙織と閨を共にしたということか?なんで? 『謎が一つ解けたら、新たな謎が出てきた』。な……何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった……。 頭がどうにかなりそうだった……。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。 350 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2011/03/09(水) 15 02 35.63 ID aphiU9Ato [10/21] お互いに服を着終えた俺達は、改めて向き直った。俺にははっきりさせておかねえといけないことがあったからな。 「沙織……。聞きたいことがある」 「はい、なんでしょう?」 沙織はフリルブラウス、ブラウンのシフォンスカート、グレーのニーソックスという格好だ。あのぐるぐる眼鏡も無い、完璧なお嬢様モード。 なんでこういうときに限ってお嬢様スタイルなんだよ……。おかげで直視できねえ。 「ここはどこだ?」 「わたくしの家です」 「なんで、俺はここにいるんだ?」 「昨夜、お兄様が酔い潰れてしまいましたので、こちらに運ばせていただきました」 成程。俺も飲んでいたことだけは覚えている。その相手が沙織で、酔いつぶれた俺を介抱してくれたってことか。 ホント、コイツには助けられてばっかだな。 「そっか。迷惑かけて悪かったな。ありがとよ」 「いえ、礼には及びません。それに、昨日は……その……」 「ん?」 どうしたんだ?沙織のヤツ、いきなりもじもじし始めたぞ。おまけに顔もほんのり赤い。う~む、実に色っぽい。 いやいや、そうじゃねえ。なんでいきなりこんな反応を?トイレか? 「その……ですね。わたくし、お兄様に激しく愛されてしまいましたので……、とても嬉しくて……」 ホワッツ?何を言ってやがるんですか、この超お嬢様は?激しく愛された? ……え?それって、どういう意味?言葉通りの意味なの?HAHAHA、そんなまさか……。 だが、俺のそんな願いは、沙織の次の言葉で粉々に砕かれてしまった。 「わたくし、初めてでしたのに……。お兄様ったら、何回も何回もわたくしを求めてくださって……」 ……………oh. 俺は無言で立ち上がると、この部屋の中でも特に頑丈そうな壁の前で立ち止まった。これなら……これなら……。 「あの……、お兄様?」 「うおおおおおおおおおおおおおっ!!思い出せ!思い出せよ、このポンコツ脳がッ!!」 俺は壁目掛けてガンガン頭を打ち付けた。痛え、すげー痛え。けどよ、このぐらいしないと思い出せねえ気がするんだよ。 「お兄様!お止めになってください!!」 「止めるな沙織ィ!このぐらいしねえと、俺の頭は思い出さねえんだよオオオオオオオオオオ!!!!」 「それでは、思い出す前に頭が割れてしまいます!!」 「それでもこれしか方法が無えんだアアアアア!!」 沙織の制止も聞かず、俺は頭を壁に打ち続けた。ガンガン打ち続けた。鈍い音が室内に響き渡る。 「思い出せェ!思い出せよ俺エエェェェ!!もしくは全て忘れろオオオオオオオ!!」 「お兄様!目的が変わっています!」 「つまり、昨夜のことは全く覚えていない、ということですね」 「申し訳ございません」 今の状況を説明しよう。沙織は椅子に座って腕を組み、俺を見下ろしている。 俺はというと、沙織の前で額をフローリングの床にこすり付けていた。つまり、DOGEZA状態だ。 結局、俺は昨夜のことを全く思い出せなかった。その事を沙織に正直に話した。もちろん、沙織は怒ったさ。 知ってるか?激しく怒られるより、静かに怒られる方が何倍も怖いんだぜ。今の沙織は、ウチの妹様が怒っている時の何倍も怖かった。 罵倒の言葉も、手や足が出ることも無い。ただ、俺にプレッシャーを浴びせてくるんだ。針の筵に座る気持ちってのは、こういうことを言うんだと身をもって知ったよ。 頭を下げ続けた甲斐があったのか、沙織は溜息を一つ吐くと、優しげな口調で話しかけてきた。 「悲しいことではありますが、覚えていないのであれば仕方ありませんわね」 「許して……くれるのか?」 俺は頭を上げて、沙織の顔を見る。沙織は穏やかな笑みを浮かべながら、俺を見ていた。 俺は思ったよ。この世に聖母がいるんなら、きっと沙織の事だってな。なんなら、「沙織教」を開いてもいいと思ったくらいだ。 「今回は大目に見ましょう。ですが、わたくしも女の子です。この埋め合わせはきっちりとしていただきますから」 「お、おう!もちろんだ。俺に出来ることなら何だってやる!いや、やらせてください!」 沙織には本当に申し訳ないが、昨夜のことは全く思い出せない。なら、ほかの事で卍解……、挽回するしかねえ。 それに、コイツには俺や桐乃のことでかなり助けてもらっている。その借りを、少しずつでも返していかないとな。 「では、そのことについては後日連絡を入れます。今日は一旦お帰りなったほうがよろしいのでは?」 「ああ、そうだな。今日のところは帰らせてもらうわ」 俺は足の痺れをこらえながらも立ち上がり、玄関に向かった。 沙織は俺の後ろについてきて、見送ってくれている。なに、この子?天使なの?現代に舞い降りた天使なの?あ、聖母だった。 「今日は悪かった。今度、必ず埋め合わせするからよ」 「ええ、楽しみにしておりますわ」 351 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2011/03/09(水) 15 03 09.71 ID aphiU9Ato [11/21] ーーーーーーーーーーーー 沙織の家で起こった騒動から三日が経った。 俺は卒論執筆のため、大学に来ている。と言っても、進行状況は順調そのものだ。就職内定もすでに取っており、いたって平穏な日々を過ごしている。 研究室で卒論の内容を纏めていると、ポケットに入れていた携帯が震えた。液晶には「沙織」と表示されている。 「もしもし」 「あー、拙者拙者」 「わりーが、俺の知り合いに侍はいねーよ」 「はっはっはー。相変わらずでござるな、京介氏」 電話に出ると、いつものバジーナ口調が聞こえてきた。こっちに慣れているとはいえ、この口調を聞いて安心する俺ってなんなの? それはさておき、沙織が連絡してきたってことは……。 「埋め合わせの件、だよな」 「そうでござる。ときに京介氏、今度の日曜は空いているでござるか?」 「ああ、残念なことに予定は入ってねえ」 「それは重畳。では、その一日を拙者にいただきとうござる」 「わかった。何時にどこ集合だ?」 「朝の10:00。アキバの電気街口で待っていてくだされ」 「結構早いな。わかったよ」 「では、拙者はこれにて!」 用件を伝え終わると、沙織はさっさと電話を切っちまった。ったく、お前は台風かよ。 俺は電話をしまうと、再び執筆に取り掛かる。ある程度進めておかねえと、あとで泣きを見るからな。沙織と出かけてる中、卒論のことを気にしていたくもねえし。 埋め合わせと言いつつも、今度の日曜を楽しみにしている俺がいた。 352 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2011/03/09(水) 15 04 23.61 ID aphiU9Ato [12/21] ーーーーーーーーーーーー 当日――――。 俺は約束した時間の二十分前に到着し、今は沙織を待っているところだ。 休日のアキバは、相も変わらず人でごった返している。今日は七月上旬並みの陽気と天気予報で言っていた。 そんな中、この人混みに紛れていくのだ。夏用の服装で正解だったな。 そんなことを考えながら、携帯で時間を確認していると――――。 「京介さん!」 背後から声を掛けられた。振り返らなくてもわかる。沙織の声だ。 軽快な足音を鳴らしながら、沙織が俺の前にやってきた。その時、俺は声を失ったよ。 アキバだから、いつものバジーナスタイルで来るものだとばかり思ってたからな。それがどうだ。俺の目の前には純白のワンピースを着たお嬢様がいやがった。 その清楚なワンピースがまた似合うこと似合うこと。思わず凝視しちまったよ。 「お待たせしました」 「……」 「あの、京介さん?」 沙織は俺の変調に気付き、目の前で手の平をひらひらさせている。俺は何とか現実に戻ってくることが出来たが、沙織は心配そうな顔をしていた。 「あの、どこかお加減が?」 「……あ、いや!なんでもねえ!いたって健康だ!」 「それならよろしいのですが……」 「ホント、なんでもねえ!ただ、すげー美人が現れたから、思わず見惚れちまっただけだ!」 「え?」 ぐああああああああああああああああ! いくら動揺してたからって、いきなり何を言い出すんだよ俺エエエエエエエエエエエエエエッ!!暑さで頭がやられたのか!? それに見ろ!沙織だって顔を赤くして俯いちまったじゃねえか!ああ、何やってんだよ。俺の馬鹿野郎。 しかし、こうして俯いている沙織は可愛いな。美人な沙織も良いが、こういう年相応な感じも……って、違うだろ!! 「わ、悪い!いきなり変なことを口走っちまって!」 「へ、変なこと……」 あれ~?今度はなにやら不機嫌そうな顔をされていますよ~? どこだ!どこで地雷を踏んだんだ、俺!このクソ馬鹿野郎! 「あ、あのー。沙織さん……?」 「いきなり持ち上げておいて、それを変なことだなんて……。京介さん、ヒドイです……」 お、仰るとおりです……。 いつもは桐乃や黒猫のフォローに徹しているし、あの格好のせいで忘れがちだが、沙織だって女の子なんだ。 せっかくおめかしして来てくれたのに、俺は何つーことを……。 俺の無神経な一言で、沙織は目に涙を浮かべている。あ、こういう沙織も可愛いな。なんか、こう……。嗜虐心をそそられるというか……。ええい、煩悩退散!! 「悪い……。他意はないんだ」 「いいえ、許しません」 沙織は頬を膨らませながら、そっぽ向いてしまった。ちくしょう、可愛い。 いや、今は沙織の機嫌を何とかして直さねえと。埋め合わせどころか、俺の好感度がマイナスに……。 353 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2011/03/09(水) 15 04 52.63 ID aphiU9Ato [13/21] 「本当にすまない。でも、沙織に見惚れてたってのは事実だ」 「もう、また冗談を……」 「いいや、誓って本当だ。沙織に見惚れてるときに声を掛けられたから慌てちまって、ついあんなことを言った。傷つけちまったよな、本当にスマン!」 俺は人目もはばからず頭を下げた。なんか、この間から沙織に謝ってばっかだな。それもこれも、全部俺のせいなんだけどさ。 周囲からはくすくすと笑い声が聞こえるが、そんなの知ったこっちゃねえ。いくら笑われようと、俺にはこうするほか無えんだ。 そんな俺の肩に、沙織の手が置かれる。 「わかりましたから、頭を上げてください。京介さん」 頭を上げると、沙織が全てを慈しむような笑顔を浮かべていた。あれ?数日前も似たような状況があったよな? 「許してくれるか?」 「いいえ、許しません♪」 なん……だと……。 あんな顔しておきながら、許してくれない。そりゃねーよ、沙織さん!結構恥ずかしかったんだぞ!あー、どうしたらいいんだよぅ……。 俺がどうにかして沙織の機嫌を直そうと考えている最中、左腕が誰かに絡め取られた。いや、沙織しかいないんですけどね。 「許しませんからね。代わりに、今日一日、ちゃんとわたくしを楽しませてくださいな」 「お、おう!もちろんだ!」 沙織は俺にもたれかかりながら、笑顔でそう言った。 それがまた可愛くて、俺はドギマギしちまった。おまけに俺の腕にさ。当たるんですよ。沙織の豊満なアレが。これやべー、マジでやベー。 隣にいる沙織は可愛いわ、やわらかいものが当たるわ、いい匂いはするわ。色々やばい。性的な意味で。 「じゃ、行きましょうか」 そう言って、沙織は俺を引っ張っていった。 ただ、沙織のほうが背高いから、なーんか不恰好になっちまうんだよな。はぁ……。 354 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2011/03/09(水) 15 05 24.99 ID aphiU9Ato [14/21] ーーーーーーーーーーーー 俺達が最初に向かったのはガンプラ売り場だ。 沙織はガンダムが好きだし、俺も男の子だからな。人型ロボットって言うだけで、こう……内から来るものがあるんだよ。あ、ロボットって言っちゃダメだったんだっけ? 俺は沙織についていきながらガンダム講座を聞いていた。 「京介さんは、どういうMSがお好きですか?」 「俺か?そうだな……」 俺は陳列されているガンプラを見渡し、その中から大き目の箱を一つとって、沙織に見せた。 「こういうのとか、結構好きだな」 「クシャトリヤですか。UCの機体ですね」 「たまたま映像を見たんだけどさ、すげーカッコ良かったんだわ。あとこのゴツい感じとか、俺の好みなんだよ」 「そうなんですか?ふふ、少し意外です」 「そうか?」 「ええ。京介さんなら、主役機の方を好むとばかり……」 「主役機ってさ、なんかスッキリしすぎじゃないか?スマートなのも好きだが、やっぱこういうのに目が向いちまうな。それに、脇役の機体や敵機の方が好みだったりするぞ」 「ふふっ。本当に意外」 何がおかしいのかわからないが、沙織が楽しんでいるのならそれでいい。 泣き顔や不機嫌そうな顔も可愛いけど、コイツにはやっぱり笑顔が似合う。思わず俺も笑顔になっちまうくらいだからな。 それから俺達は、店内にあるガンプラを見て色々話しながら、その場を後にした。 次はショールーム。 ここにはショーケースの中に色んなものが展示されている。ガンダム系の展示もあるぞ。 「こういうのを見ると、自分でも作りたくなるけどさ。こんなに綺麗に作れないだろうな、きっと」 「そうですね。でも、近づけることは出来ると思いますわ」 「沙織はこういうの得意そうだもんな」 「慣れているだけです」 俺の腕に引っ付いている沙織は、展示物を眺めながら俺に答える。 俺も、沙織の方には顔を向けない。なんか、そうしちゃいけない気がしたからな。 傍から見れば、俺達はいっぱしのカップルに見えてるだろうな。そういう雰囲気も出してるだろうし。ただ、場違い感が半端無いけど。 「じゃあさ、今度教えてくれよ」 「わたくしが?」 「ああ。こういうのってさ、やっぱ自分で作った方が愛着湧くだろ?それに、沙織なら先生として適任だしな」 「ふふっ、わかりました。ですが、わたくしの指導は厳しいですわよ?」 「……なるべくお手柔らかに頼むぜ」 355 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2011/03/09(水) 15 05 52.32 ID aphiU9Ato [15/21] ーーーーーーーーーーーー さて、沙織とアキバを散策してから一時間以上が経過している。少し早いが、ここらで昼飯にしようと思ったんだ。混むのは嫌だしな。 「沙織、ちょっと早いけどメシにしないか?」 「そうですね。わたくし、行ってみたいお店があるんですけれど、よろしいですか?」 「おう、いいぞ」 そう言って案内されたのは、意外や意外。ラーメン屋だった。 「ここ……なのか?」 「はい。わたくしだけだと、なかなか入りづらくて……」 「沙織が良いんなら、俺は構わないけど……」 「じゃ、早速」 店内に入ると、席は七割ほど埋まっていた。コレがもう少し後なら、完全に満員だったな。 俺は入り口にある券売機で二人分の食券を購入し、席に着いて店員に渡した。 程無くして、俺達の前にラーメンがやってきた。ちなみに俺は味噌、沙織は塩だ。鉢からは湯気と一緒に食欲をそそる香りが漂ってくる。 「「いただきます」」 両手を合わせ、割り箸を取って、俺達は麺を啜る。 味はなかなか良く、次回もまた来たいなと思うほどだった。 「うまいな」 「そうですね。わたくし、あまりこういうものは食べたことが無かったのですが、美味しいです。今度、きりりんさん達も誘ってみようかしら?」 「あー、それはやめとけ」 あの妹様はこういうのにはとかくうるさいのだ。きっとゴネるに違いない。もっとお洒落な店に行こうと言うに決まっている。 沙織もそれはわかっているらしく、俺の忠告を簡単に聞き入れてくれた。 しかし、こういう時でも沙織はお嬢様なんだなと実感する。俺なんか音を立てて麺を啜っているのだが、沙織は音は立てないし食べ方は綺麗だし。 まるでラーメンという名の高級品を食べてるみたいだ。それでも、スープは跳ねるみたいだがな。 「沙織、動くなよ」 「え?」 俺はハンカチを取り出すと、沙織の口周りについたスープを拭いてやった。 沙織はおとなしく、俺のされるがままになっているが、頬が赤かった。やっぱ、恥ずかしいよな。小さい子じゃねえんだから。ま、俺がしたかったから許せ。 「おし、キレイになった」 「あ、あの……、ありがとうございます」 「いや、気にするな。それに恥ずかしかったろ?」 「その……少し……」 沙織は顔を赤らめたまま俯いちまった。やりすぎたかな? それはそうと沙織さん。あんまり放置すると、麺が伸びちまいますよー。 356 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2011/03/09(水) 15 06 20.43 ID aphiU9Ato [16/21] ーーーーーーーーーーーー 食事を終えた俺達は、再びアキバの街に繰り出した。まあ、普段桐乃たちと行ってるようなところを回っただけなんだけどな。 同人ショップにフィギュアショップ、ゲームショップやアニメ関連グッズのショップ。ショップばっかりだな、オイ。 途中で家電やPCなんかも見たりしたけどよ、やっぱ普段と変わらない。 色々見て回って、その都度会話して、俺達は笑い合った。桐乃や黒猫と一緒にいるのも楽しいけど、こうやって二人きりってのも良いな。 携帯の時計を見ると、時間は三時を回っていた。結構時間が経ったな。 「沙織、まだ帰るには早いけど、この後はどうする?」 「そうですね……。もう見て回るものはほとんど回ってしまいましたし……」 沙織も、今日はもう見たいものは見尽くしたようだ。これでイベントなんかがあれば、そっちに行くんだろうけどな。 俺もまだ帰りたくなかったし、何かないかと考えていると、沙織が閃いたようだ。 「カラオケなんていかがですか?わたくし、少し疲れてしまいました」 「カフェとかじゃなくてか?」 「はい。それに、京介さんの歌を聞いてみたいですし」 「う……。別にいいけど、上手くないぞ?」 「構いません。上手い下手は関係なく、京介さんの歌が聞きたいんです」 ここまで言われて引いたんじゃ、男が廃るってもんだよな。 俺は覚悟を決めて、沙織と一緒にカラオケ店へと向かった。 カラオケ店に来た俺達は、フリータイムで入室した。部屋に入った後は内線で飲み物を頼み、席に着く。 はぁ~、今日はほとんど歩き通しだったからな。座っちまうと一気に疲れが来る。 「ふぅ~」 「ふふっ、京介さんったら。おじいちゃんみたい」 「ほっとけ。お前は疲れてないのか?」 「もちろん疲れてますよ。でも、それ以上に楽しかったですから」 「そりゃ良かった。俺も楽しかったけどよ、疲れとは関係ないと思うぞ」 「そうですか?」 今日の沙織はよく笑う。いや、いつもの沙織もよく笑うけどね。ぐるぐる眼鏡かけてωな口をしながらだけど。 つか、お嬢様モードの沙織とこんなに長く接したことってあったか?少しは慣れたけど、やっぱ美人の笑顔は破壊力あるわ。毎回ドキドキするもん。 店員が飲み物を運んできて、俺達はそれを手に取る。俺はアップルジュース。沙織はジンジャーエールだ。 俺がアップルジュースを飲んでいると、沙織がいきなり俺にもたれかかってきた。 「あのー、沙織さん?」 「申し訳ありません。わたくし、思っていたよりも疲れてしまったみたいです」 いや、それはいいんですけどね。あなたがそういうことをすると、俺の理性とか理性とか理性とかがやばいんですよ、ホント。ええい、何か他の事を考えるんだ俺! あー。沙織のヤツ、背は高いのに座高は俺より低いのか。頭が肩のとこに来てるし。座るとちょうど良い感じ? それに髪は綺麗でさらさらだし、いい匂いはするし、可愛いし、スタイル良いし……。そういやあの時の俺、沙織の裸を……違う違う!今はそういうことを考えるんじゃない! 「少しだけ、このままでもよろしいですか?」 「お、おう」 あー、どうすんだよ。ホントにやばいんだって。 なんでこういう時にしおらしくなるんだよ。抑え込むのも大変なんだよ?コイツ、自分が可愛いって自覚があるのだろうか?いや、無い!(反語) でなきゃ、こんなに無防備な姿を晒さないだろ。常識的に考えて。 結局、それから一時間くらい、俺の肩は沙織に占拠されてたわけだ。 357 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2011/03/09(水) 15 06 47.91 ID aphiU9Ato [17/21] ーーーーーーーーーーーー 時刻はもうすぐ六時を回ろうとしていた。 俺達はカラオケ店をすでに退室し、今はUDX内のカフェで一服中だ。一応言っておくが、俺も沙織も非喫煙者だからな。 「今日はとても楽しかったです。京介さん、ありがとうございました」 「俺も楽しかったよ。行くトコ全部、沙織にまかせっきりにしたのは悪かったと思ってる」 「いえ、わたくしがお誘いしたのですから当然のことです」 元々は俺が原因でこんなことになっちまった上に、ここは普通なら非難されるところなんだろうが、そんなことは関係なく沙織はいつもフォローしてくれる。 それは、コイツが良いヤツであり、良い女であり、良い人間だからなんだろう。 槇島沙織だろうと、沙織・バジーナだろうと関係ない。全部ひっくるめて「沙織」という人間なんだ。そして、俺はそんな沙織を好いている。 それが「大切な友達」としてなのか、「一人の女の子」としてなのかは……今はまだわからないけど。 「もうこんな時間ですのね。そろそろ、お開きにしましょう」 関係を持ったから、こんな気持ちが芽生えたわけじゃない。遠因にはなるかもしれないが、それは原因じゃないんだ。 だからさ、時計を見た瞬間、沙織が少し悲しげな表情になったのも見逃さないし、それを払拭してやりたいと思うのは当然だろ? 俺は困ってるヤツは見過ごせない。それが妹だろうと、友達だろうと、知らないヤツだろうと関係なく、な。 シスコンである前に、俺は超が付くほどのお節介焼きなんだ。なら、俺がこの場で掛ける言葉は決まっている。 「なあ、沙織」 「はい?」 「また、どこか出かけないか?今度も二人きりでさ」 「え?」 沙織は俺の言葉が理解できないのか、きょとんとしている。結構ストレートな誘い方だと思うんだがなぁ~。 「あの……それって……」 「次のデートのお誘いだよ。言わせんな恥ずかしい」 なんとなく沙織の顔を見ていられなくて、俺はコーヒーを飲むフリをして視線を外した。 沙織は今、どんな顔してるんだろ?さっきの寂しげな表情が消えているといいな。……あれ?何で黙ってるの、沙織さん? 俺は沈黙に耐えられなくて、沙織に答えを催促した。 「で、良いのか?嫌なら無理には……」 「い、嫌じゃありません!」 いきなり沙織が声を荒げるもんだから、周りの人がこっちに注目し始めやがった。こっち見んな。 沙織もそれに気付いたらしく、頬を赤らめながらも笑顔で答えてくれた。 「嫌じゃありません。とても嬉しいですわ」 「そっか。じゃ、今度は俺から連絡するよ」 「はい。お待ちしてます」 早速で悪いんだが、前言を撤回させてもらう。どうやら俺は、沙織のことを「一人の女の子」として好きなようだ。 だってさ、沙織が笑えば嬉しいし、泣いていればこっちも悲しくなる。今の俺は、最高に嬉しいと感じているんだ。 この気持ち……まさしく愛だ! だからと言って、愛を超え、憎しみも超越し、宿命となることは無いけどな。断じて無いからな!! 358 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2011/03/09(水) 15 07 21.55 ID aphiU9Ato [18/21] ーーーーーーーーーーーー カフェを出た俺達は、八時間ぶりに秋葉原駅電気街口に戻ってきた。こんなに長い時間一緒にいたのに、なんだかあっという間だった気がする。 「今日は本当に楽しかったです」 「ああ、俺もだよ。別れるのが惜しいくらいにな」 「もう、またご冗談を……」 「本心だよ」 そう、これは俺の本心だ。まだ沙織と別れたくなかったけど、ガキみたいな我侭言っても仕方ないだろ? それに、今生の別れじゃない。会おうと思えば会えるんだからさ。だから、今日はここでお開きだ。 「近いうちに連絡するから」 「絶対ですよ。忘れたら怒りますから」 「男の誓いに、訂正は無い」 「ふふっ」 さあ、今度こそ本当にお別れだ。駅の改札口に向かう沙織を、俺は手を振りながら見送った……。あれ?沙織さんが引き返してきますよ? 「どうした?忘れ物か?」 「はい。大事なものを忘れていました」 沙織が悪戯っぽく笑った次の瞬間、俺の唇に柔らかいモノが触れた。え……?なに、今の? 状況を理解できない俺は沙織の顔を見た。あれれ?頬が赤いですよ、沙織さん。 「これで大丈夫。それでは、また」 そう言って沙織は、改札口を通って駅の中に入っていっちまった。俺はと言うと、未だに状況が飲み込めず、呆然と突っ立ってたよ。 なんとか現実に戻ってきた俺は、その時決心したんだ。次に沙織と会ったら、自分の気持ちを伝えよう、ってな。 359 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2011/03/09(水) 15 07 52.11 ID aphiU9Ato [19/21] ーーーーーーーーーーーー 「ふぅ……」 京介さんと別れ、電車の席に着いたわたくしの口からは、自然と溜息がこぼれていました。 疲れたから、だと思います。肉体的にと言うより精神的に、ですけれど。それに、別れ際には軽くですけれど、その……キスもしてしまいましたし……。 今思うと、結構恥ずかしいことですよね。わたくしったら、なんてはしたないことを……。思い出すだけで顔が熱くなってきました。 でも、あのくらいしないと、鈍感なあの方のことです。わたくしのことを意識はしてくれないでしょう。 「それにしても……」 今日一日で、京介さんの心中は変化したのでしょうか?果敢にアタックしているのですが、あの方の鈍感さは筋金……いえ、鉄骨入り。 コロニー落としくらいの衝撃がなければ気付かないのでは、と思うぐらいですから。 今日のわたくしの行動で、陥落までは行かなくても、外堀を埋めることぐらいは出来ているといいのですが……。 たとえ出来ていなくても、次があります。ほかならぬ、京介さんがチャンスを与えてくださいましたから。 けれど、あの件を実行したときは、まさか次があるとは思っていませんでした。 京介さんが酔い潰れてしまったあの日、わたくしの家に運んで、服を脱がせて、その隣でわたくしも眠りについて……。そう言えば、わたくしも裸でしたね。 実際はなにも無かったんですけれど、それを利用して今日のデートに漕ぎ着けて、わたくしのことを意識していただこうと思っただけなのですが……。 これは、京介さんがわたくしに傾いてきているということでしょうか?でしょうね。うん、そういうことにしておきましょう。そして、次こそは決めます! だから、京介さん……。 「覚悟しておいてくださいね」 わたくしは、自身を奮い立たせる意味もこめて、そう呟いたのです。 【俺の妹の友達がこんなに狡猾なわけがない】 おわり